「江戸時代の年貢は、誰の手に渡っていた?」問題

読書力・読解力

こんにちは。読書と学習法のナビゲーター、寺田です。
 
毎週金曜日は、九州大学のゼミがございまして、
しなやかでキレのある大学4年生と、

(あくまで、画像はイメージです。)
小動物のように慎ましやかな3年生2人とに刺激をもらいつつ、

(あくまで、画像はイメージです。)
先生から繰り出されるハイレベルなジャブに応戦して、
自分を磨いております。
 
さて、昨日は4年生の彼が面白い論文をレポートしてくれまして、
あまりに衝撃的だったので、ちょいとご紹介してみたいと思います。

「江戸時代の年貢の行方」の謎

私は17年前、中学校で社会科を教えておりました。
さらに遡ること、今から24年前には塾で中学校社会を
指導していた経験もあります。
 
その時、まったく考えたこともなかったわけでして、
非常にお恥ずかしい限りなのですが・・・
 
江戸時代、農民が収めた年貢は誰のものになっていたの?
 
という素朴な疑問を持つことなく、
社会科教師を卒業してしまいました。
 
あなたはご存知でしたか?
 
ちなみに、学生さんが紹介してくれたのは、
早稲田大学・教育・総合科学学術院の教授でいらっしゃる麻柄啓一先生と、
山梨大学・総合研究部の教授でいらっしゃる進藤聡彦先生による研究論文
『教材文読解における操作活動が歴史のご認識修正におよぼす効果』です。

受験戦争をくぐり抜けたばかりの大学生の正解率は?

麻柄先生が大学生32名にテスト(調査)したところ、
なんと正解率は6%(2名)だったとのこと。
(テストした大学名は明らかにされていませんが、
 所属の早稲田大学・教育学部でしょうかね?)
 
うーん。やっぱ、みんな知らないんだ・・・(^_^;
安心しちゃいけないんでしょうけど。
 
ちなみに、

年貢は基本的にすべて「藩(領主)のもの」であり、
徳川幕府は大名(藩)から、農民からの年貢の上前(うわまえ)を一切はねていない!

のですよ。
 
意外じゃありません?

なぜ、多くの人が間違って認識しているのか?

この間違いの原因を麻柄先生は次のように分析しています。

  • 徳川家康は他の諸国大名を打ち破り全国を統一して幕府を開いたのであるから、従えた大名から経済的な利益を取っていないとは考えにくい。
  • 時代劇では、幕府の要人が大きな権力を持っていたように描かれている。
  • 現在は所得税であれ消費税であれ国税の存在が当たり前であるので、どんな社会(時代)であっても中央政府が税を取っていたはずだと一般化して考えがちである。

(以上、原著論文よりママ引用)
 
確かに教科書にも年貢がどこに行くかという話は
書かれていない
わけで、上記のような前提知識ゆえに
「当然、幕府も取っているだろう」と思い込み、
「ちゃんと考えてもみなかった」という人が大半ってことになるわけですね。

一般的学生
まぁ、知らなかったけど、別に困る話じゃないし。

 
といえなくもありませんが、麻柄先生はこう指摘します。

明治時代(中央集権体制)と江戸時代(藩の自治権が一定程度認められていた封建体制)の政治の仕組みの根本的違いが把握されていないことになり、明治維新の意義の理解も不十分である可能性が大きい。

なるほど、確かに!
わざわざ革命を起こしてまで、
何を実現したかったのか、とか
 
その後の殖産興業、富国強兵につながる
政治体制につながる流れが理解出来ないよ、と。
 
それはそれで興味深い話ではあるのですが、
今回ご紹介したかったのは、そういう話ではありません!

麻柄論文であぶり出された驚くべき問題

実はですね、タイトルで

「江戸時代の年貢は、誰の手に渡っていた?」問題

と書いたのですが、別に多くの人が間違っていた、
ということを「問題」と言いたいわけではないんです。
 
テイストとしては、別のブログで書いたこれに近い感じ。

結論としては、

寺田
みんな、もっと数学の勉強をちゃんとしようぜ!

というあたりでしょうか・・・

ちなみに歴史の教科書には…

歴史の教科書には「幕府は年貢の上前をはねていませんでした」
なんてことは、当然書きません。
 
「やってない」ことを、わざわざ説明する必要はありませんよね。
 
しかし、代わりにこの2つの説明があるんですね。

  • 幕府の財政収入の基礎は直轄地(天領)である。
  • 財政難からの挽回を期した享保の改革で、1722年から1730年までの9年間、1%(一万石につき100石)の米を差し出させた。

確かに、この2つの説明を付き合わせて対偶命題を考えれば、
「幕府は年貢の上前を、わずか1%ですら取っていなかった」
ということが分かります。
(以上は高校の歴史教科書より。中学校の歴史は不明です。)

名無しさん
まぁ、とはいえ、それを勉強していたからといって、考えたこともない問い(「幕府は年貢米を取ってたの?」)には答えられないよね。しゃーないよ。

 
そういう考え方も「あり」だとは思います。
 
しかし、問題はここから。
その麻柄先生らがおこなった実験がすごい結果を
示しているんですよ。
 
学生さん達に、次の2つの文を含む説明を読ませた上で、
いくつかの選択肢について、その正誤を答えさせたそうです。

資料の文章に含まれる2つの文
  • (1)江戸時代、徳川家も他の大名も自分の領地の農民から年貢を取り、それを収入の基礎としていました。
  • (2)(「上げ米(あげまい)の制」について)これは大名に、一万石の石高につき100石(つまり1%)の米を幕府に献上させたものでした。この制度は江戸時代中期の1722年から1730年までの9年間実施されました。
(2)の内容についての問い

正しいものは「○」、間違っているものには「×」、どちらとも言えないものには「△」を書きなさい。
※行直下の【】内は、【正解:正答率】を示します。

  • (c)1722年から1730年までの9年間、大名は石高の1%より多い米を徳川幕府に差し出した。
    【×:62%】
  • (d)1722年から1730年までの9年間以外の江戸時代にも、大名は石高の1%を徳川幕府に差し出した。
    【×:46%】
  • (e)1722年から1730年までの9年間以外の江戸時代に、大名は石高の1%より多い米を徳川幕府に差し出した。
    【×:41%】

しかも!
 
別の学生達に、ちょっと変わった実験をしておりまして、
その結果が、また格別にビックリでございます。
 
なんと、その学生達には、上記の正誤問題の
解説と正解を最初に読ませて確認した上で、
まったく同じ問題を解いてもらったところ…

(c)の正答率:47%
(d)の正答率:32%
(e)の正答率:41%

という残念な結果になったそうです。

それってどういうこと?

もう、本当に「謎」としか言い様がないわけですが、
あくまで最初に思い込んでいたことに捕らわれてしまい、

名無し学生さんA
いや、だって9年間以外のことには言及されてないし。
 
名無し学生さんB
1%以上、差し出してないとも書いてないだろ?
 

という例外の可能性、言外の意味の可能性を
否定できなかったわけです。
 
実際、麻柄先生の論文にも、次のような学生の
生の声が紹介されています。

「事実に絶対はないと思うので、1%より多く献上していた藩もいたと思います。解説で納得はしていません。」

いやはや、伝えたいことを正しく伝えるのって、
難しいものですよね。
 
相手の思い込みが強ければ強いほど、
相手は非論理的な思考回路でもって、
理論的な解説を撃破してしまうわけです。
 
 
子ども達に、こういう思い込みによる誤読に陥らず、
論理的に読み、思考し、意見を出せる力を
身につけさせてやらないと、健全な議論も生まれませんし、
容易に人に騙され、洗脳される大人になってしまいそうです!
 
なんとかせねば!

追伸

じゃぁ、具体的にどうするの?という話になると、
なかなか難しいところですが、

  • そもそも「想像力」と「理性(知識)」がぶつかる場合は、想像力が勝利を収めるものだということを理解させる。
  • あらゆる情報を相対化させられるよう、広く情報を収集し、総合的に判断できる力を養う。
  • 論理的な思考力、判断力を養うような数学の指導をする。

といったあたりが目指すべき方向性でしょうか。

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