なぜ「読解問題をやらせて解説するだけ」では、読解力が育たないのか?

PISAの読解力順位が落ちたー!とか騒がれますが、その後、学校での読解力指導に変化はあるのでしょうか…

PISAの読解力の結果が低いことは、もうかれこれ10年以上、指摘され続けています。でも改善しない…。
先生ががんばっていないってことではないと思うのですが、頑張り方を根本から変えないとダメかもとも思うわけです。

今日は、そのあたりのことを、海外の読書教育研究の知見を踏まえつつお届けします。

目次

日本語における「厳密に読む」の課題

まず、日本語という言語の特徴でしょうか。
特に読解の指導をしなくても、ある程度、普通に国語の授業とか読書とかを通じて、子どもたちは勝手に本を読めるようになっているように思えてしまうんですよね。読んでいる本人も、細かなことが分かっているかどうかは別として、それなりに分かっている感覚・手応え(これをメンタルモデルと呼びます)を持っていますこれが落とし穴なんですが。

英語は、そもそも綴りが難しいので「文字(スペリング)と発音の関係」をしっかり学ばないと、読めるようになりません。いわゆるフォニックスです。(日本のひらがなって、すごい!)
そして、代名詞(日本語だと指示語)の存在がやっかいです。たとえば…

Tom lent his car to Jerry because he had missed the last train.

なんて文があったとき、文中の「he」が何を指しているのか、前の文脈が頭に残っていないと瞬時には分からない場合があるんですね(この文であれば、ちょっと考えれば分かりますが)。
英語の場合、こういう難しさがあるために、そして非英語ネイティブの移民の問題もあって、言語的能力をトレーニングする研究と実践がすごく充実しています。

日本はそのあたりの危機意識がないためでしょうか。あまり「厳密に文・文章を読み解いていく」というレッスンがありません。

しかし、感覚的に分かった気分になることと、本当に正しく理解できることの間には、無限の隔たりがあるわけです。意図的に、厳密に正しく読むトレーニングをしないで、ひたすら読む練習(読解問題や読書)をさせたとしても、その子の持っている言語能力の限界で読解力が頭打ちになることは想像に難くありません。

教育現場での指導では…

国語や算数・数学でありがちな、こんな演習も同じです。

読解問題/文章問題を解かせて、答え合わせをし、模範解答の導き方について解説する

間違えたから正解を確認して、解き方をなぞって終わり、考え方を解説されて分かった気分で終わり、ではいつまで経っても、今の自分の読解力のレベルを超えていくことができません

今のところ、学力アップのために存在するはずの学習塾でも、こういう今の読解力のレベルを超えていくためのトレーニングを採用しているところはほとんど見たことがありません。

学校であれば尚更です。先生が読み方、考え方を解説して終わりです。
《個別のワーク》と、《クラス全体の答え合わせと解説》の往復だけで終わっている場合がほとんどです。もちろん《グループワーク》の時間はありますし、意見交換の時間も用意されていますが、一方的に“できる友達”の意見を聞いて終わるのが一般的パターンです。

だって、先生も「分からない文章の読み解き方・攻略法、読書ストラテジー」を体系的に学んでいませんし、生徒たちにできるはずがありません。

読解力アップを本気で目指すなら?

読解力アップを本気で目指すなら、「分からない文章に挑み、分かるようになる」ような指導法を確立しなければならないはずです。
その中核に来るであろうものが、読書ストラテジー(戦略)として読み方の「型」をきちんと教えること
これは次の3つに分けて考えることができます。

  1. 読む前に実施すべきストラテジー
  2. 読んでいる最中に実施すべきストラテジー
  3. 読み終わった後で実施すべきストラテジー

読書ストラテジー使用の3つの段階

《読む前に実施すべきストラテジー》

  • 何のために読むのかという目的を明確にする。
  • 自分がそのことで、すでに知っていることを確認する。
  • ざっと下読みをして、読み物の構造や内容を確認し、ある程度の内容を推測する。

《読んでいる最中に実施すべきストラテジー》

  • 読んでいる内容を理解できているかモニタリングする。
  • 読んで分かったことを整理して書き留める。
  • 読む前に予想していたこととのズレの確認と修正。
  • 知らない単語や概念のチェックと予想。その後、辞書などで調べる。

《読み終わった後で実施すべきストラテジー》

  • 生徒同士で、分かったこと、分からなかったことを相互にチェックしあい、どう考えたのか、どう考えたら理解(正解)できるのかなどを話し合う。

指導者はもっと、子供の読解力アップに責任を果たそう!

オランダもPISAの順位が低迷しているらしいのですが、こういった読解ストラテジーの研究が盛んにおこなわれています。
どのような読書指導が必要なのかということについて、現状の読書指導のあり方の分析を踏まえて、効果の上がる読書指導(メタ認知的な読書ストラテジーと、その時間配分)について研究しているのだそう。

日本の先生たちも、もっと研究者の知見を取り入れるだけの積極的な意識を持って欲しいところです。
「読み方」の指導を明示的に説明し、読解の最中に適宜フィードバックを与えたり、やって見せたりしながら、子どもたちに体験させつつ、効果を体感させるのです。
なんとなく続けられている従来通りのやり方(読ませて、考えさせて、発表させて、解説する)を捨てて、ストラテジックな読み方、技術としての読解の指導を目指さないと、今のレベルを超えていくことはできませんから。

今の読解力(スキル)を超えたレベルで挑む技術がストラテジー(戦略)なんです。ストラテジーを活用することで、読み方がもっとうまくなる(レベルが上がる)可能性が生まれるのです。

もちろん、大前提として冒頭で書いたような「意図的に、厳密に正しく読む」ことができている必要はありますが。

国語指導、読解指導に携わる先生方、ぜひ読解指導のあり方を変えていきましょう!

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この記事を書いた人

フォーカス・リーディング主宰者

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