「算数・数学の文章問題が苦手だけど、どう指導したらいいか分からない」という相談をしばしばいただきます。
「文章問題が苦手」という場合、様々な原因と課題が考えられるため、そうそう簡単に「はい、これで大丈夫!」とはいきませんし、思考の習慣(考えない習慣)や、言葉を言葉だけでもてあそぼうとする習慣(具体的なイメージや言葉として紙に書き出さない習慣)は、一朝一夕には解消しません。
この問題について、ことのばでは、子どもたちの読解トレーニングの一環として、算数の文章問題を採り入れています。
算数の文章問題で表現される登場人物や数値などを的確にとらえ、処理するトレーニングをさせるのです。
これは『子どもの速読トレーニング』に「イメージ化トレーニング」として収められているのですが、その子の読解力が如実に見えて来ます。そして、その練習によって、文章を読むのがどんどんうまくなっていきます。
具体的には、
- 言葉を漫然と読み流さず、1つ1つの要素同士の関係をイメージしながら読む。
- 言葉で表現されていることが、具体的にどのようなことなのかイメージしながら読む。
という2つの要素が中心です。
塾で受験対策問題に慣れているなら要注意!
算数の文章問題を「パターン練習」的にトレーニングし、感覚で解けるようになっていることが多いんですね。
文章を分析するとか、関係を整理するとか、そういう練習をまったくしないまま、「このパターンの問題なら、この図を使う」みたいな。
だから知らないパターンの文章に遭遇すると「分からない!」となる。そして、せっかく文章問題を解いているのに、読解の力にまったく結びついていません。
これはもったいない!
せっかくなので、中学校の数学(文章問題)にもつながる、高い読解力を手に入れる練習を、小学校時代からやっておきましょう!
読解トレーニングとしての文章問題
算数の文章問題は、文章に含まれる複数の要素の関係を俯瞰的にとらえる、非常にいい練習になるのです。
例えば、次のような文章題があったとします。超基本の「き」です。
桃太郎は鬼退治の軍資金を作るために、おばあさんに頼んでたくさんのきびだんごを作ってもらい、それをバザールで販売することにしました。
桃太郎は、きびだんごが完売したら、必要な軍資金ぴったりの売り上げになるように値段を設定していました。
しかし、賢い犬が「でも、何か想定外の出費があるといけないから、その値段の1/5(5分の1)の利益を乗せて販売しましょう!」と提案しました。
実際、バザールではきびだんごが人気を博し、すべて完売したお陰で600万の売り上げになりました。
さて、もともと桃太郎が設定していた売り上げはいくらだったのでしょうか?
ここで重要になる数字、要素同士の関係は…
- きびだんごの売値は、もともとの値段に1/5の利益を上乗せしたものである。
- その売値は合計で600万だった。
たったこれだけです。
子どもたちには、このような問題を解く上で必要な要素に線を引かせて、それを図に落とし込ませます。
図にするとこんな感じです。
この図が描けさえすれば、あとの計算は難しくありませんし、難しければ電卓を叩いてもいいくらいです。
大切なことは、文章を読み解き、要素の関係を整理し、そこに描かれている全体をイメージすることです。
・・・などとカンタンに書いてしまっていますが、小学校4年生くらいの子どもには、この図が描けないことがよくあります。
- 「売り上げ」とか「利益」という言葉がピンと来ず、上図の棒グラフが描けない。
- 1/5利益を上乗せしたら、全体が1+1/5で6/5(5分の6)になるということが分からない。(算数の計算問題で出たら分かるのに!)
といった問題があるんですね。
(1)については、悩んでも仕方がないので、世の中の仕組みを学ばせるつもりで、仕入れ値・売値・定価などといった概念を、身近なものと対照しながら理解させるとか、いろいろな本を読ませるってのが解決策になりそうです。
(2)については、一緒に図を描きながら練習させる中で、量の関係を明確にしつつ、さらには式も一緒に書くよう促す必要がありそうです。
要素ごとの関係を整理する練習も…
もう1つ。こういう文章問題があったとします。
どういう画を描ければ、問題が解けるでしょうか。
桃太郎とサル夫婦、犬1匹、キジ3匹がボートに乗って、鬼ヶ島に向かうことになりました。
ボートの重さは桃太郎の倍でした。サルは夫婦とも同じ体重で2匹あわせて桃太郎と同じ体重です。
犬はサル1匹の半分、キジはそのまた半分の体重でした。
全員が乗り込んだ時のボート全体の重さは370kgでした。
犬の体重は何キロでしょうか?
今日、本をほとんど読まずに過ごしてきて、読解が苦手な子に、次のような手順を示して、この問題をさせてみました。
1)一読して、この文章問題で何を求めさせようとしているか確認する。
ここで立ち止まるとしたら、かなり丁寧に読解の練習をしなければなりません。
…といいながら、実際には「何が問われているか分からない」子は多いものです。
「文章問題を解ける」というのは「文章が読めて理解できる」こととセットで「問題で何が問われているか分かる」ことが必要です。
それぞれ別系統のスキルですので、それぞれケアしてやらなければなりませんね。
2)求める答えを導くのに必要な要素に線を引く
今の文章だと、この部分に線を引けば大丈夫。
桃太郎とサル夫婦、犬1匹、キジ3匹がボートに乗って、鬼ヶ島に向かうことになりました。
ボートの重さは桃太郎の倍でした。サルは夫婦とも同じ体重で2匹あわせて桃太郎と同じ体重です。
犬はサル1匹の半分、キジはそのまた半分の体重でした。
全員が乗り込んだ時のボート全体の重さは370kgでした。
犬の体重は何キロでしょうか?
今回、この問題に挑戦した子は、この線を引く作業ができませんでした。
問題を解くために、どの情報が必要かが分からないんですね。このレベルが分からないということは、算数のスキル以前の問題ですので、あまり焦らず、丁寧に読解トレーニングに取り組んでいくしかありません。
3)何を基準に置いて関係を整理したらいいか考える。
当然、最小単位である「キジ」が基準になります。これは慣れていけば大丈夫でしょうかね。
4)要素同士の関係を図に落とし込む。
最後に、この関係を図に落とし込みます。
こんな感じですね…実際には、キジから出発して、1つずつ上に上がっていくような描き方になるはずです。
基本単位を「キジ」において、すべてを「キジ○匹分」として計算できるかが勝負です。
今日の指導では、このキジ変換がうまくいきませんでした。「キジは犬の半分」という表現を反転させて「犬はキジの2匹分」にすることができなかったんですね。
犬⇔キジの変換ができないということは、その他の動物の変換も当然できません。
一応、一緒に画を描きながら解説すると、「分かりました」とは言うのですが、ここで学んだ考え方が次回、新しい問題を解くときに活かせるかどうか…まぁひたすら慣れるまでやるしかありません!
そして、こういう練習を通じて、その子の文章読解の苦手なポイントを指導者が把握して、上手に手を打つことで、間違いなく読解力は上がっていくものです。(^^)
ということで、算数の文章問題を「パターンで解く」状態を抜け出して、丁寧に文章に書かれていることをイメージに落とし込むステップについて解説してみました。
もし、算数の文章問題が苦手なお子さんがいたら、ぜひこういう「絵に描く」スタイルで取り組ませてみてください。