読解力アップに「線引き」が効果的なわけ

結局のところ、成績を上げるための鍵は「読解力」だ。
 
このことは、多くの教育者が認めているところです。
しかし、残念なことに、その具体的な方法が教育の世界で認知されていないため、「本を沢山読め」とか「丁寧に読みなさい」といった〝間違っていないけど、的を射ないアドバイス〟に終始しがちです。

1.読解力を構成する2大要素

読解力は非常に複雑な心理的な作用が働いているのですが、大きく分けると2つの要素からなっているとされています。

1-1.単語・文節認識作用

“decoding”と表現されるのですが、シンプルにいえば言葉がどこで切れているか(単語・文節の区切りを)把握することであり、その読み方(発音)を認識する作用です。

読解の原理と指導について学術的な研究をまとめたハンドブック”Understanding and Teaching Reading Comprehension”(Routledge)では、”Word Reading”として整理されており、”Letter-sound knowledge”, “Accurate word decoding”, “Automaticity in decoding”の3つからなるとされています。
英単語だと、そもそも発音とスペリングが一致しませんので、そこに非常にエネルギーを要します。国際リテラシー協会の分科会や個別テーマの学習会でも「フォニックス」が重要なテーマとして取り上げられていました。
日本語はひらがながそのまま「音」になり、音がそのまま「しゃべったことのある言葉」になりますので、むしろ問題は「文節区切り」になります。しかし、これも小学校の低学年であれば、文節の区切りにスペースが入れられますし、高学年以上になれば漢字やカタカナのお陰で、それもあまり大きな問題ではなくなります。

読書が苦手な人は、苦手意識から意識を絞り込んで読もうとするあまり、視野が狭くなりがちで、そのために文節が正しく捉えられていないものと考えられます。
なので、この段階をクリアするための練習としては(ディスレクシアなどの特殊な場合を除いて)、次の2つの要素が有効と考えられます。

a)視野をゆるめて自然体で読む練習をする

視野の構造というのは、次の図のようになっています。

ストレスがかかると、「言葉として認識し、音として読み上げる視野(可読視野)」と、「その前後で言葉の区切りとつながりを把握する視野(可識視野)」の両方が狭くなります。これで前後の言葉を意識・無意識で処理できず、言葉の切れ目が自動的に判断できなくなると考えられます。

※可読視野、可識視野という言葉は寺田の造語です。

なので、このレベルの問題は速読トレーニングでおこなう、視野を緩めて活字を受け止める練習が効果を上げると考えており、実際、極度に読書(音読)が苦手だった子が短期間でスムーズに音読できるようになっています。

b)同じ文章を何度も音読してスムーズに読むことに慣れる

これについては、以前記事を書いていますので、そちらをご一読ください。

[clink url=”https://www.kotonoba.jp/reading-literachy/the-method-of-repeated-reading/”]

1-2.意味・理解処理作用

1-1で「単語」が認識できたら、それを意味に変換して、文として処理し、さらに文章の流れ(文脈)として処理していかなければなりません。
 
上に紹介した “Understanding and Teaching Reading Comprehension” では “Language comprehension” と表現されており、次の5つの要素が挙げられています。

  • 1-2-1.Activating word meanings(単語の意味を心内辞書から取り出す)
  • 1-2-2.Understanding sentences(文のつながりを理解する)
  • 1-2-3.Making inferences(文脈を推論する:主に橋渡し推論)
  • 1-2-4.Comprehension monitoring(自分の理解をモニタリングする)
  • 1-2-5.Understanding text structure(テキスト全体の構造を把握する)

ちなみに、1から4までがミクロレベルの理解(microcomprehension)、最後だけがマクロレベルの理解ですが、今回のメインテーマはミクロレベルの理解です。
 
では、それぞれをどうトレーニングしていくか、育んでいくかということなのですが…

1-2-1.単語の意味を心内辞書から取り出す

いわゆる語彙の問題です。小学校低学年時代の「辞書で調べた意味を憶える・思い出す」というレベルを超えたものが求められます。
日常の会話の中だけでは絶対量が不足してしまいますが、小学校の高学年になると気ままな読書ではなかなか増えません。意図的にジャンルを広げて読書をしていかないと語彙が増えません。
 
小学校高学年以降の読書量と学力が比例しない問題(下のベネッセ記事参照)は、この語彙が大きく関係していることが予想されます。

[blogcard url=”https://berd.benesse.jp/berd/berd2010/center_report/data27_01.html”]

1-2-2.文のつながりを理解する

こちらは少し前に書いた記事で明らかにしていますが、まず、「文」の中の言葉のつながりを明確に意識するトレーニングが必要になります。

[clink url=”https://www.kotonoba.jp/reading-literachy/how-to-brush-up-reading-comprehension/”]

それができたら「文のつながり」です。実は、今回メインで取り上げたかったのがこちら。
 
上記、言葉のつながりが非常にスムーズにできているのに、ここでこける子は非常に多いものなのです。
英語であれば代名詞が何を指すかで悩むそうで…。例えばこの2つの文では、どちらで多くの子がつまずくでしょう?

Santiago lent his car to Peter because he had missed the last train.
サンティアゴは自分の車をピーター(男性)に貸した。が最終電車に乗り損なったからだ。

Santiago lent his car to Olivia because she had missed the last train.
サンティアゴは自分の車をオリーバ(女性)に貸した。彼女が最終電車に乗り損なったからだ。

そう。 ── 前者ですね。
his, heという2つの「彼」を示す代名詞で混乱するのです。「彼が最終電車を」の「彼」がどちらを指すのか、瞬時に理解できず意味が混乱するわけです。後者は混乱する要素がありません。
日本語だと、人称代名詞が出てくることはまれですが、それでも「それ」「あれ」「これ」「前者」「後者」といった指示語は頻出しますし、「いわゆる」「文字通り(例:”仙台は文字通り森の都の風情だ。”)」などの言い換えの問題が出てきます。
 
このほかにも、算数や数学の文章問題のように、前の文で抽象的に表現されたことを前提として次の文が展開される文章では、一つ一つの文を十分に咀嚼、イメージ化/図解化して積み上げていく能力が求められます。

1-2-3.文脈を推論する:主に橋渡し推論

これは前の文で作られたイメージが、後の文に影響を与えるもの。例えば、

いぶきは案の定、傘を学校に置き忘れてきた。お陰で、帰宅したときずぶ濡れ状態だった。

この一文から何が推測できるでしょう?

  • いぶきは忘れっぽくて、「傘を忘れてくるなよ!」なんて、親に言われてるんだろうな。
  • 行きがけに傘を持っていったということは、天気予報で雨予報だったのか。
  • 学校を出るときは雨が降っていなかったんだろう。途中で豪雨になったのか。

おそらくはこんなことを自動的に予測するわけです。そして、これらは特に書かれていなくても予想できてしまいます。これを「橋渡し推論」と呼びますが、日常的な体験や背景的な知識を元に行間を読んでいるわけです。
 
では、次の文はどうでしょう?

ゆうあは真っ青になった。布が破れてしまった今、干し草の山が命に関わる重要な存在なのだ。

これはなかなか難しいはずです。それは「布」というものが抽象的すぎて、何を言っているのかが分からないからです。そうなると、「干し草の山」も具体的なイメージがわかず、なぜ命に関わるのかも理解できません。
その前にこういう一文があったら変わるわけですが…

ゆうあといぶきは、人生初のスカイダイビングで、大空の滑空を楽しんでいたはずだった…。

もちろん、真っ青になる前に何らかのイベントが発生しているはずですが、そこが書かれていなくても想像が付きますよね。

1-2-4.自分の理解をモニタリングする

ここまでの具体的な問題を解決するのが、この理解モニタリングです。読書が苦手な子というのは、得てして「自分が読んでいる言葉の意味が分かっていない」ものなのです。
それは「読む」という作業が、小学校の低学年であれば「音にして、間違えずに読み上げる」ことの方に一生懸命になっていたり、一文一文の処理にエネルギー(ワーキングメモリー)を消費してしまって、2と3で書いた文と文のつながりの処理に意識が回っていない可能性があります。

2.どうしたら「文と文のつながりの理解」を鍛えられるか?

代名詞、指示語、接続詞などの明示的な言葉の処理にせよ、推論を要する意味の飛躍(断絶)にせよ、今、読んでいる一文がどういう意味を担って、文脈を作っているか処理し続けるメタな意識が重要になります。この理解モニタリングを改善する手法として有力とされているのが「傍線(下線)を引く」作業です。

2-1.意味不明箇所に傍線を引く

単純に「分からないと感じた部分に線を引いてご覧」と促すだけ。大学生や社会人向けには「書籍の不明点には緑色の傍線を引きましょう」と指導しています。

[blogcard url=”https://www.office-srr.com/column/identify-what-you-dont-recognize-with-green-pen/”]

ただ、やってみると分かるのですが、読めない子は分からないことが分からないわけですから、最初は自分独りではできません。
指導者が「じゃぁ、これはどういう意味なんだろう?」という具合に、適切な問いかけをしてやらなければなりません。

2-2.代名詞・指示語・接続詞に線を引く、まるで囲む

意味不明箇所をある程度、発見できるようになったら、次は「つながり」を明確に意識する練習です。
文と文の接続に重要な意味を持つ言葉に印を付け、その言葉を意識しながら再読するようにします。それでも不明点が残ったら、それについては、色を変えて線を引かせるといいですね。(^^)
 
この「線引きによる国語トレーニング」については、こちらの記事でも紹介しているので(お薦めの指導書も)参考にどうぞ。

[clink url=”https://www.kotonoba.jp/reading-literachy/build-up-reading-comprehension/”]

 
ということで、前提の解説が非常に長くなり、結論は非常にシンプルな話になってしまいましたが、「線を引く」という作業を通じて、子どもたちの理解の不足を明らかにしながら、同時に理解モニタリングのメタ認知的能力を高めていこうというお話でした。
 
ぜひ、国語指導の参考にしてください!

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この記事を書いた人

フォーカス・リーディング主宰者

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