子どもの“算数の苦手意識”を解消するには何が必要?

目次

1.子どもの算数に対する苦手意識とは?

1.1 算数が苦手な小学生の現状

子どもたちにとって、学校で学ぶ中で最も困難と感じる科目の一つが、しばしば算数です。例えば、東京都が令和3年度と4年度におこなった調査によれば、両年度ともに小学校6年生で「算数は得意でない」「どちらかというと得意でない」と答えた児童は全体の35%前後に及びます。

学研が公表している調査でも「嫌いな科目」のナンバーワンが算数となっています(ちなみに好きな科目のナンバーワンも算数^^;)。

小学生白書Web版(2018年度調査)

算数なんて簡単な四則計算ができればいいじゃん!という考え方も否定する必要もありませんが、中学校以降の主要受験科目である数学につながることを考えると、この苦手意識は早い段階で解消しておきたいところです。

1.2 算数の苦手意識はどうして生まれるか?

子どもたちが算数に対して苦手意識を持つ原因は様々。
各種調査(代表例)によれば「割り算」や「割合」あるいは「小数の計算」あたりになると具体的な体験やイメージと結びつきづらく苦手意識につながりやすいようです。また私の指導の経験から言えば、算数の文章問題では数字と数字の関係を適切に把握できず(つまり、そもそも文章が読めていない可能性大)、「計算は得意だけど、文章問題は苦手」という子どもも多いはずです。

これを、単純に「苦手」「嫌い」という言葉で片付けてしまったり、闇雲にドリル問題に取り組ませたりするのは悪手。丁寧に子どもの「苦手意識がどこから来るか?」を見極めていきたいところです。

2.算数の苦手意識を生み出す要因

2.1 自己効力感の影響

学習意欲、つまり「よし、勉強するぞ!」というモチベーション(学習意欲)には、自己効力感と呼ばれる感覚(自分には○○が出来るだけという感覚)が大きく作用しています。

教育学者、バンデュラによれば、自己効力感が低い子どもは新しい挑戦に対して消極的で、失敗を恐れがちです。算数で苦手な領域があると、「解けない」「間違う」といった不安から取り組みを避ける傾向があります。
つまり何か「難しい!できない!」と思い込んでしまった領域(単元)をきっかけに自己効力感が下がり、算数そのものへのモチベーションが下がり、それが「苦手・嫌い」という負の感情につながってしまったかも知れないというわけです。

2.2 勉強方法との関連性

逆に自己効力感はどうしたら養えるかといえば、「解き方」「学習のステップ」を学び、それを使いこなして自力で問題を解く経験が重要なのです。具体的な問題を通じた「実践的な学習」が有効なのです。

苦手意識が強い、つまり自己効力感が低いのは、具体的な練習・実践が不足しており、「やり遂げた!」という達成感(ひいては自己効力感)が得られる体験ができていない可能性があります。

2.3 親の言葉のかけ方の問題

苦手意識に影響する、もう1つの要素に「環境」の問題があります。
例えば、学校や家庭での高過ぎる期待厳しい評価、周囲の友人からのネガティブなフィードバックなどは、子どもの自己評価を低くし、自信を失わせる要因となります。
「子どもの成績・結果」に対する賞賛・叱責も、これに含まれます。点数がいいと褒め、悪いと叱責する…がんばって点数が上がったのに「まだまだだな」などとネガティブな言葉をかける親自身や兄弟と比較して低く評価するといったことは、子どもが難しい問題を避けたり、勉強そのものへのネガティブな感情を抱いたりするきっかけになります。

子どもの未来をポジティブに変えていけるのは、親がかける「子どもの努力」の承認、賞賛、ねぎらいといった種類の言葉です。
今、間違えていることは「これからよくなるための経験」と、子ども自身が認識できれば「できない」ことで心が折れることなく、「できるようになろう」という意欲を生む可能性が生まれます。

3.日常の算数学習に潜む3つの問題点

3.1 算数学習の問題点

これまでの算数の勉強と言えば、

①「問題を解く」
⇒②「答え合わせをする」
⇒③「間違えた問題の正解を確認し、修正する」

というステップを踏むことが多かったのではないでしょうか?

この流れが間違っているわけではありませんが、ここで起こりがちな問題があります。

3.2 ①「問題を解く」の問題点

そもそも苦手意識があるのに、いきなり問題に挑むと、それは苦痛でしかありません。とりわけ、よく理解出来ていない単元なら苦手意識を増幅するに決まっています。

この時「問題を解く」という作業が「できていないことを実感させられるテスト」になってしまっているわけです。
問題を解く作業は、本来「もっとよく分かるようになるための練習」でなければなりません。上記2.2で書いた「「解き方」「学習のステップ」を学び、それを使いこなして自力で問題を解く経験」です。

3.3 ②「答え合わせをする」の問題点

苦手意識の強い子ほど「答え合わせ」が、単に「正解か不正解かの確認」で終わりがちです。
しかも、だいたい単元の問題をすべてこなしてから、まとめて答え合わせをすることが多いものです。つまり、問題を解く過程に「力が向上していく」要素がなく、今の実力で何問正解できるかの確認で終わっているのです。

3.4 ③「間違えた問題の正解を確認し、修正する」の問題点

これも②の延長です。
正解した問題は○を付けるだけでいいのですが、不正解の問題まで×を付けて正解を書き写すだけの作業、つまり「不正解でした。残念! 正解はこちらでした!」というクイズ番組か何かのような確認作業で終わらせてしまうことがほとんどです。

このように、宿題であれ、自主的な家庭学習であれ、塾の勉強であれ「算数の問題を解く」という作業が、「自己効力感を下げるテスト」になってしまい、「自己効力感を上げる学習体験」になっていないという現実があります。
これは、とてももったいないことなのです。

4.苦手意識を解消するちょっと変わった学習法

4.1 「問題を解く」を「分かるようになるための第一歩」にする

どこで苦手意識を持ってしまったかを見極めるために、最初のうちは、できれば親や指導者と一緒に丁寧に確認しながら進めてみてください。

例えば、小学校レベルの算数の計算問題であれば、方眼紙のマスに沿って数字の大きさ、桁をそろえて書くところから始め、途中の式を省略せずに丁寧に進めさせます。

算数の文章問題であれば、文章からいきなり式にさせず、まずは文章で表現されている状況を絵で描かせてみて下さい。無機的な計算式も、ピザをみんなで分ける、みかんをみんなで分けるなど具体的なイメージを伴うイラストにできると「式の意味」が分かるかも知れません。場合によっては積み木やおはじきなどを「身体で操作する」体験が必要かも知れません(それを想像しながらイラストを描くというのもOK)。

4.2 「問題を解く」のハードルを下げる

苦手な単元であれば、「問題を解く」作業のハードルを下げる必要があります。
ここでの基本は「4問程度ずつ解いて答え合わせをする」という方法です。
さらに、状況により2つの方法があります。

4.2.1 解ける問題と解けない問題がある場合

「問題を考える時間は3秒まで」という3秒ルールを設定し、解けないと思ったら飛ばして、次の問題に進みます。
そして4問終えたところで答え合わせをします。

4.2.2 そもそも「解けそうにない」と思う場合

そもそも解けそうにないと思う単元であれば、最初に同じパターンの基本例題などで解き方を丁寧に確認し、今から解く4問の解き方が分かるか確認します。場合によっては、4問の模範解答と基本例題の解き方を照らし合わせながら、4問の予習をしてしまいます。

その上で、今、確認したばかりの解き方が再現できるかを確認します。
この場合、1問ずつ模範解答を確認して、自分の解き方が正しかったかどうかをチェックしましょう。
「あ、できるようになってきたかも?」と思えたら4問ずつ解くようにします。

4.3 「答え合わせをする⇒修正する」を「学習」のステップにする

上記②「答え合わせ」と③「間違えた問題の正解を確認し、修正する」をまとめて解説します。

答え合わせを4問ずつおこなうのは、先に解いた4問で分かってきた解き方を「次で使える(再現できる)かどうか」を確認するためです。これはリハーサルと呼ばれるとても重要な作業なのです。

そして、ここで重要なのは答え合わせの手順です。

  1. 正解問題は○を付けるだけでOK
  2. 間違えた問題は模範解答の解き方を確認し、どこが分かっていなかったか(間違えたか)を確認する(模範解答を書き写さない!)
  3. 4問すべての答え合わせが終わったら、もう一度、その問題を解いてみる
  4. 解けたらOK。解けなかったとしたら「根本的に分かっていない」可能性があるので、問題から離れて、一度丁寧に説明を読むとか、誰かに説明してもらうとか対策が必要

問題が基本⇒標準⇒応用(実力)のようにレベルアップしていく場合、レベルが上がった時は、「4.2 「問題を解く」のハードルを下げる」に従って、やり方を調整しましょう。

このステップで問題演習(宿題)に取り組むことで、

  • 問題に取り組むハードルが極端に下がる(難しいといって頭を悩ませずにすむ)
  • スモールステップで、徐々に自分で問題を解けるようになる
  • 「問題の攻略法」が身につき「勉強は、やれば分かるようになるものなんだ!」と思えるようになる

という効果が期待できます。これは自己効力感を高めるステップになっていると考えられ、苦手意識を解消・克服する大きな力になり得るものなのです。

実際、ことのばに通う中学生は、ほとんどの子が「家では全然勉強しない」「塾には行かせているけど、成績が上がらない」という問題を抱えて連れて来られていました。
しかし、この方法を体験すると「なんだ、解けるじゃん!」と思えるため、

女性さん

今まで家で勉強なんてしたことないのに、突然、宿題や溜まっていた問題集をやるようになりました!

という、保護者の方の驚きの言葉が寄せられるような状況になるのです。

寺田

小難しいことを言いますと、これはバンデュラ(Self-efficacy: toward a unifying theory of behavioral change, 1977)の自己効力感の理論に基づいて、「小さな成功体験を積み重ねることで自己効力感を高め、その結果として算数に対する苦手意識を克服する」という手法なのです。

4.子どもたちの苦手意識解消へのおまけ

子どもの勉強に対する「やる気」というのは、保護者のかける言葉に大きく影響されるものです。

「勉強やったの?!(やってないでしょ?)」
「勉強やらなくていいの?(やらないと、またテストでひどい点とるでしょ!)」
「さっさと勉強しなさい!(どうせダラダラするんでしょ!)」

みたいな子どものやる気をそぐ言葉は避けたいところです。

LINE登録者の皆様にお届けした「自律学習虎の巻」の「③成績アップ!の前に考えるべきこと」に出している調査結果ですが…

こちらの言葉を忘れないようにしてください。

同時に、何か勉強法を採用したら(塾に通わせたとか家庭教師の先生に来てもらったとか)3ヶ月を目処に「本当に学力(自分で学ぶ力)が高まっているか?」を確認するようにしてください。
そこを放置して、ひたすら問題演習を続けても、単に「人の力を借りて、苦手なことを処理しているだけ」になってしまいます。

逆に、このような「学習法」を学ぶことで、自己効力感が高まり、今後のあらゆる学習にポジティブな影響が生まれてきます。
ぜひ、親子で「勉強法改革」にチャレンジしてください!

こちらも参考にしてください!

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この記事を書いた人

フォーカス・リーディング主宰者

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