あれこれ読解力、学力にまつわる論文を漁っておりまして、その中から面白いデータをピックアップしてみます。
[toc]
読み能力と成績についての自己評価は相関関係がある
当たり前に言われることですが、データとして示されると「あぁ、やっぱり」となるお話。
ちなみに論文はちょっと古くて昭和61年に大阪教育大学の北尾倫彦(きたおのりひこ)先生らによるもの。
4つの小学校に所属する790名の児童について調査したもの。
なお、「自己評価」というのは、例えば「国語はよくできるほうですか?」といような質問について「よくできるほう、ふつう、あまりできない」から選んで答えるという形での評価です。
「読み能力」(語識別、文脈把握、文意記憶、推論)が高い子どもほど、成績についての自己評価が高くなります。
ただし、図工・家庭・音楽・体育の4技能教科はまったく相関性がなかったとのこと。
ま、そりゃそうだ、と片付けていいでしょう…ね。
言語的経験の豊かさが読み能力を作る
以下の項目について三件法(3つの選択肢から回答する質問法で調査したそうです。その結果と上記「読み能力」の相関性を調べた、と。
-
■現在の言語的経験■
- 1日にどれくらいテレビを見ますか
- 教科書以外の本を読みますか
- 日記を書きますか
- 手紙や葉書を書きますか
- 漫画を読みますか
- 家の人と話をしますか
- 友達と話をしますか
- お母さんはやさしく話しかけてくれますか
- 家の人にあいさつをしますか
- 話をするのがすきですか
- 文を書くのがすきですか
-
■過去の言語的経験
- 幼稚園の頃、お友達とよく話をしましたか
- 幼稚園の頃、お母さんがよく本を読んでくれましたか
- 幼稚園の頃、お母さんはよく話をしてくれましたか
- 幼稚園の頃、先生とよく話をしましたか
- 幼稚園の頃、絵本を読みましたか
- 幼稚園の頃、ひらがなが書けましたか
- 幼稚園の頃、ひらがなが読めましたか
- 幼稚園の頃お父さんはよく話をしてくれましたか
調査結果から分かったこととして、
- 漫画を読むことと、友達とお話をすることは、読み能力と相関関係が見られない。
- テレビの視聴時間については、読み能力と負の相関関係が見られる。
- それ以外の項目については、すべて相関関係が認められ、とりわけ「教科書以外の本をよく読む」、「文を書くのが好き」、「絵本を読みました」、「お母さんが本を読んでくれた」は高い相関を示している。
研究者らによる総括として、次のように書かれています。
読み能力の発達には、話し言葉よりも書き言葉、とくに文章化された書き言葉に関する経験の豊かさが重要な規定要因になっているといえよう。
読み能力が高いと、授業をよく聞けて(分かって)、成績も高くなる
ここで紹介していないもろもろの研究結果からの知見も踏まえての結論ですが、なんとも当たり前の話が研究結果によって支えられた、という印象ですね。(^^)
読み能力が高くなると、学習適応能力が高くなります。
授業に集中できて、積極的に授業に参加できて、もちろん先生の話もよく分かる、と。
つまり、能力が高くなると「意識」まで高くなるわけです。
小学校に上がる前に、読み・書き体験を充実させましょう!
今さら的な結論です。
- 小学校に上がる前に、たっぷりと本の読み聞かせをしましょう。それだけでなく、本人が静かに絵本を読むように促しましょう。
- できれば、ひらがなはちゃんと書けるようにしておきましょう。
読書と読解力・国語力の関係についての補足
あと、別の研究から追加で。ベネッセ教育研究開発センターの小林洋氏による「読解力向上と読書との関係」と題するレポートからの話題。
読書量と読解力のいびつな関係
このブログでも散々書いてきたことですが、本が好きで、じゃんじゃん本を読む子でも国語の成績が悪い…ということが起こります。
[blogcard url=”https://www.kotonoba.jp/reading-literachy/book-reader-can-be-good-at-kokugo/”]
[blogcard url=”https://www.kotonoba.jp/reading-literachy/is-yomikikase-effective/”]
これについてデータで示されています。
「最近1ヶ月の読書量」と「読解力」の関係ですが、明らかに「まったく本を読まない(読書力=0)」子どもよりも、本を少しでも読んでいる子どもの方が読解力(スコア)が高くなっています。
しかし、そのピークは調査対象とされた小学校5年生、中学校2年生ともに「月に4-5冊」つまり「週1冊程度」になっているんです。
それ以上は「増えない」どころか「やや下がる」傾向にあります。小学生は読書量が増えるほど、ゆるやかに読解力が下がる傾向があり、中学生になると「読解力が上がらない」(きれいな相関関係はない)ということだけ分かります。
これは「国語の成績」でもほぼ同じ傾向があり、国語の成績のピークは「月4-5冊」の子どものところに来ています。
ちなみに、フィンランドの子どもの場合、読書時間と読解力は比例する傾向があるそうです。(苦笑)
しかし、もう1つすごく重要なデータが!
「読書の多様性レベル」と「読解力」の関係を見ると、明らかに「いろいろなジャンルの本を読んでいる子どもは読解力が高い」という結果が出ているんですね。
要するに量というよりは「幅の広い読書」が出来ているかどうかが、読解力を決めるよ、と。
上に「小学生は読書量が増えるほど読解力が下がり、中学生は相関関係がない」と書きました。
ひょっとすると、小学生は量をこなす場合、自分の好きな小説などばかりを読んでいるからかも知れませんね。そうすると、どんどん気軽に(適当に)読み飛ばしていく癖を付けてしまう可能性があります。(あくまで仮説ですが。)
とはいえ、ジャンルを広げていこうと思えば、量をこなしていく必要があるわけでして、やはりある程度の量を確保できるような工夫は必要ですね!
読書量が増えると高くなるものがあった!
ベネッセの研究レポートに、もう1つ、面白いデータがありました。読解力、国語の成績は「量と比例しない」わけですが、ほぼ明らかにプラスの相関性が認められる要素があるよ、と。
それは「社会的実践力」、「問題解決力」、「社会参画力」といった能力。
詳細は省きますが、やっぱり本をたくさん読むことは、広い意味で「生きる力」にはつながっているわけですね。
ということは、本を読むことが読解力、国語力につながらない要因を見つけ出してケアすることができれば、人生レベルでいえばかなりのアドバンテージになるはず!
ということで、やはり子どもに本をじゃんじゃん読ませましょう!
ただし、戦略的に、幅を作り、レベルを上げていくようにね!