今月号の「COURRiER JAPON」のテーマは「天才の法則」。
これは読まなきゃいかんだろ、ということで読んでおりましたら、「天才」の記事よりも興味深いものが紹介されておりました。
それがトップの画像の「スマートLED」というもの。
なんでも、スマホで明るさ、色味(色温度)を調整できるLED照明なのだそうで、現在、クラウドファンディングで投資家を募っている「Silk」という商品。
これ以外に、同等の製品で、すでにAmazonでも販売されているものもあります。
Philip hueの出している「ブルーム」。
たかが照明と考えれば、このお値段はあり得ません。はい。
ですが、これを「集中力とリラックスの効果を高めるツール」として考えると、、、さて、どうでしょう?
人間の精神は「光」に大きく影響を受けている?
ブルーLEDは犯罪を減らすのか?
あなたもきっと、色が人間のメンタルに影響を与えているという話を聞いたことがあるでしょう。
リラックスしたい時や食事の時、あるいは眠る直前にはオレンジ色。
集中したい時には昼光色、昼白色。
冷静さに訴求したい場合はブルー。
心を静めたいときは桜色。
実際、山手線など複数の鉄道駅ホームで「自殺抑止効果」を期待して「青色LED」が採用されていたり…。
⇒山手線全駅ホームに『青色LED』の自殺防止照明(AFP BBニュース)
レストランが「赤(暖色系)」を多用しているとか…。
ただ、これらは「通説(俗説)」でしかありません。
実際、青色LEDを採用した鉄道各社は相変わらず自殺者の増加に頭を悩ませ、最終的には「ホームドア設置」に落ち着いています。レストランも別に店内を赤色にしているわけではありませんし(サイゼリヤにいたっては緑基調ですし!)
色彩心理学など、業界団体がいろいろ主張していますが、今のところ科学的と呼べるデータも研究論文もなく、自分の業界団体をヨイショするための疑似科学的主張の域を出ていません。
ですので自己暗示的な効果(プラシーボ効果)も込みでの話と受け取っておくべきでしょう。
駅の照明を青色にした結果、自殺が84%減少したという東大沢田康幸教授(応用計量経済学)の研究もありますが、反論として「青色灯を導入して一定時間は確かに犯罪率が減少するが、それを過ぎると逆に犯罪率が増加する」という研究も出ているそうです。
いずれにせよ「再現性」という部分では科学の域に達していないと考えるのが、現段階でのクールな判断と考えています。
照明の色味と明るさが与える効果?
「色」という部分では、そういうわけで疑似科学の域を出ないわけですが、「照明の色と明るさ」という面では少し話が変わります。
大成建設技術センターというところが「照明計画と知的生産性に関する研究」という論文を発表しており、そこでは「照明の照度(明るさ)と色温度(色味)が知的生産性に、有意な影響を与える」としています。
同センターでは、次のような問題意識からこの研究に取り組んだとしています。
照明環境に対して印象評価などの主観評価を中心とした研究は多くなされているが、知的生産性に関する被験者事件などの客観的な研究成果が十分ではない。
この実験では、照明の「明るさ(照度)」と「色味(色温度)」を変えながら、被験者の知的作業の成果とそれによる疲労度がどう変わるかを客観的な指標を用意して調査しています。
ちなみに知的作業としては次のようなものが用意されたそうです。
単純作業の模擬作業として加算作業、校正作業、テキストタイピングを、商品開発など創造性が必要とされる業務の模擬作業として数独、マインドマップ、ブレインライティングを課した。
その研究の細かな話は実際の論文が公表されていますので、そちらをお読みください。
⇒大成建設技術センター報 第43号
照明の明るさと色味は有意に影響あり!
様々な実験データが示されているのですが、一番欲しい情報はこれです。(笑)
本実験の範囲内では高照度・高色温度条件に加え、照度600-800lx、色温度4500-5000K付近で作業効率が最も向上する傾向がみられた。
(中略)
知的創造作業の作業効率と疲労度には相関関係があり、光環境において、主観的な疲労度が低い空間は知識創造作業の作業効率が向上する可能性が示唆された。
ちなみに照度600-800lxというのは、かなりの明るさです。
家族団らんのためのリビングの照明は150-300ルクスで十分なのだとか。オフィスでは、精密な作業が発生するなら300ルクス以上をどうぞ、と某照明器具ショップの解説にはありました。
色温度の4500-5000Kというのは、蛍光灯でいえば「昼光色」「昼白色」といった、白もしくは青みのある白でしょうか。
★色温度とは(コトバンクより)
光の色を数値で表現するもので、単位はK(ケルビン)を使う。物質を燃やしたとき、高温になるほど炎の色が青くなるように、暖色系は色温度が低く、寒色系の色は色温度が高い。
ちなみに同論文では、このような技術もあります。
比較的暗い環境では印象通り眠気やだるさは増すが、身体的にリラックスするため心身症的訴えが低かったと考えられる。
(中略)
明るい環境は一概に眠気を感じにくい環境であるとは言えないことが分かった。
明るさと色味、なかなか奥が深そうですね!
結論:照明をコントロールして精神状態をコントロールしよう!
「色」そのものが心理的にどういう影響を与えるかとうことについては、科学的なデータはありません。
しかし、大成建設技術センターの論文を読むと、明るさと色味のセットで、精神に影響を及ぼすことができることは間違いなさそうです。
そう考えると、この「スマートLED」という装置で、シチュエーションによってライトの明るさや色味を変えられたら、仕事にも生活にもいい影響が得られそうですよね。
自分はどのくらいが一番リラックスできるか、疲れずに会話を楽しめるか、いい雰囲気にひたれるかといった部分では、俗説的に語られることを参考にしながら自分で調節…。
学習や仕事についていえば、集中力アップを期待して「高照度・高色温度」に設定…と。
色を切り替えるという作業そのものにも、自分に対する「気持ちのスイッチを切り替える」効果も期待できます(いわゆるアンカリングという効果ですね)。
こういう最先端のものには、いろいろ非化学・未科学な効能書きがつきものです。
それらに煽られるのではなく、冷静に受け止め判断した上で、使えそうなものはどんどん採り入れたいところです。
ただし!
寝る前にスマホをいじりすぎて、ブルーライトで脳を無駄に疲労させて眠りの質が悪くなる…という本末転倒に陥らないようにしましょう。
質のいい睡眠こそ、高い集中力と高い学習効果を生む基本ですから!