貧困の拡大再生産を食い止めるために、親は何をすべきか?

2015.11.04付けの西日本新聞の1面トップは「子どもの貧困率」の記事でした。
 
「子どもの貧困率」というのは、簡単にいえば「相対的な低所得家庭のうち、18歳未満の子どもがいる家庭」が、全体の何パーセントを占めるかという数値。
ちょっと面倒な計算式で計算されるのですが、同記事によると次のような現状があるそうです。

平均的な可処分所得(いわゆる手取り年収)の半分(2012年、4人世帯で244万円)を下回る世帯を「相対的貧困層」とし、貧困層に含まれる子の割合が12年に16.3%と過去最悪を更新した。

翌日11.05の日経新聞で「非正規雇用が4割を越えた」という記事もありましたから、日本社会がいよいよ1990年まで、つまり私たち40代以上の大人が学校で習ったはずの「終身雇用」も「総中流社会」も完全に過去の話になってきているということでしょう。
 
しかも九州、とりわけ福岡は深刻だよ、と。
同じく西日本新聞から数字を引用しますと…

■子どもの貧困率

  • 福岡県:23.0%
  • 佐賀県:13.0%
  • 長崎県:18.5%
  • 熊本県:15.3%
  • 大分県:16.6%
  • 宮崎県:16.4%
  • 鹿児島県:21.3%
  • 九州:19.4%
  • 全国:15.6%

福岡は子どもの4人に1人が貧困家庭に身を置いているという計算ですよ!

親として意識すべきは、貧困が「拡大再生産」される可能性

貧困それ自体も問題です。
でも、それは社会的な制度で対処のしようがあります。
(このブログはそこを論じるべきところではないので割愛。)
 
私がすごく気になるのは貧困が「拡大再生産」されてしまう可能性です。
 
以前の記事(⇒「子どもの学力向上のために親ができること」でも、最近の学術的研究とともに紹介したとおり、家庭の文化が子どもの学力に大きな影響を与えます。
 
私が教師をしていた時代に、一番心苦しかったのは、親御さん自身の生活がすさんでいて、子どもの将来をまったく考えていないケース。
 
進路を語る際、勉強云々の前に「どういう未来を描くか」が重要です。
そのために、学校は「職場体験」などを通じて、社会で活躍することの価値と大変さを中学・高校時代から教えようとしています。
 
でも、一番身近なロールモデルとなるべき自分の親が、自暴自棄的な生活をしていたり、「勉強なんてできなくてもいい」というスタンスでいたりすると、学校教育ではなかなか手の打ちようがありません。
オスカー・ルイスという社会学者が「貧困の文化」「貧困の文化」という言葉を使いましたが、この文化がどうしても子どもの行動を規定してしまうわけです。
 
親が悪いといってしまえば簡単ですが、その親自身も何らか社会的な要因で今の状態にいるのも事実。
社会として何とかしなければならないわけですが、そこを根本的に解決するには、智恵とエネルギーと、そしてかなりの時間がかかります。
結局、子どものケアに手が及ばないうちに、その子も親と同じ道を進んでいくことになってしまうのです。
 
これが伝統的な「貧困の再生産」という図式。

親が前向きなら大丈夫…とならない難しさ

今や貧困は「拡大再生産」の方向に向かっています。
それが「非正規雇用拡大」にもつながる話。
 
家庭が豊かでなくても、笑顔で意欲的に学校に通い、一生懸命に勉強している子もいました。
 
そういう子は、塾に通えなかったとしても、親御さんとの連携がうまくとれさえすれば、家庭学習を充実させるようなケアを学校が用意することで何とかなります。
 
いや、「一昔前の日本社会なら」それでよかったんです。
塾も学校も「とりあえず、上の学校(高校・大学)に進学させる」ことだけを考えていればよかった。
 
それがそうじゃなくなってきているのが現代です。
 
そこそこの4年制大学を卒業しても、割の合わない派遣労働に甘んじなければならない可能性が高い。
正社員になれたとしても、ブラック企業だったり、会社が倒産したり。
 
親はそこそこ中流の生活をしていて、子どもにそれなりの教育を施していたとしても、子どもの世代で貧困の罠にはまる可能性があるわけです。

親は「社会が変わった」ことを認識しよう!

目の前の勉強に取り組んでいればいい、という近視眼的な努力。
 
それが未来を切り開く力を持ったのは、社会が「一昔前と同じ」という前提があったから。
遠い未来を俯瞰する視野が不要な時代に、我々大人は生きてきました。
 
でも、今はそうじゃない。
社会がどう動いているのか、その社会ではどういうスキル・知識が求められているのか、そんなことを俯瞰して見ておかないと、やるべき努力を間違いかねません。
 
社会保障制度をどうするか、年金をどうするかといった、社会の仕組みについて考え、そこに訴えかけることも重要です。
でも、それは目の前の子どもを救うことにはなりません。
 
親が子どものよきアドバイザーとしてあるために、まずは親自身が世の中の動きをちゃんとウォッチしておかなければ!
 
そして、「まじめにやる」「与えられた課題をこなす」というレベルを超えて、どんな荒波だって超えていく、どんな世界だってその地平を自分で切り開いていくという、ある種の起業家的な文化を育んでやらなければ!
 
どんな時代でも生きていけるだけのサバイバル能力を身につけさせてやらなければ!
 
そのサバイバル能力のとらえ方は、人、家庭によって違うかも知れません。
でも、新しい世界にわくわくしながら挑んでいく文化、逆境にへこたれないマインドは共通、必須のものであることは間違いありません。
 
私は教育に携わる身として、「読む力」「聴く力」「考える力」「集中力」、そして「自ら学ぶ力」が、そのサバイバル能力の重要な基礎スキルだと信じていますので、そこを子ども達に提供していきたいと思っています。
 
もちろん、変化の時代、ボーダーレスの時代を楽しんでいく文化作りの支援も!
 
 
さて、あなた。
 
親として、大人として、子どもに「どんな時代・社会でも幸せに生き抜く力」として、何を授けたいと思いますか?
家庭で、どういう言葉をかけていけば、子どもの中に「切り開く文化」「乗り越える文化」を育んでいけそうですか?

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この記事を書いた人

フォーカス・リーディング主宰者

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