教師経験からいえる「ノートと学力」の関係。
ノートをきれいにとっている生徒が成績がいいとは言えないのですが、
成績が優秀な生徒はだいたいにおいてノートの作り方がうまい。
「きれい」じゃなくて「うまい」。
- 線や矢印、記号の使い方がうまい。
- 先生が板書したものを、そのまま写すのではなく、書き方を工夫したり、イラストを入れたりと、書き取る段階でアレンジしている。
- さらに予習や復習で、補足の書き込みをしたり、色を付けたり、あるいは新たにまとめ直したりと、アレンジ度が高くなる。
勉強が苦手な生徒は、ノートを写す作業は文字通り「コピー作業」に過ぎません。
これに対して、成績がいい子は、ノートを作るその時に、ポイントをつかみ、各要素の関係を把握、整理しているのです。
おまけに、コピー作業をしている生徒は、ノートに写す作業に必死になるため、授業を聞けていません。
それに対して、成績がいい子は授業を聞きながら処理し、その結果をノートに出力します。
ですから基本的に学校では、先輩教師から「生徒にはノートを書く時間をとってやらなければならない」と言われたものです。
小学校だとたいてい、授業中「話を聞く時間」と「ノートを書く時間」を明確に分けているようですね。
私は教師時代から、この「ノートを取る力」を重視していました。
「黒板を写す」ではなく、「話を聞きながらメモする」という意味での「ノートを取る力」です。
政治経済・倫理の授業では、毎年1ヶ月ほどの期間、黒板に一切書かず、ひたすらしゃべるだけの授業をおこない、ノートを工夫してとらせるようにしていました。
生徒達は、最初こそとまどいますが、意外とあっさり慣れて、上手にノートをとれるようになるものです。
だいたい35分ほどしゃべるだけの(もちろん、生徒とのやりとりはあります)授業をします。
最後の10分少々を、教科書や資料集を読みながらノートを整理する時間に充てていました。
授業にディベート大会なども採り入れていましたので、この「聞きながらポイントをメモする」力は非常に大事な基礎スキルでもあったのです。
そんな「ノートにまつわる体験」から、今日は「ノートを工夫して取ることの教育的価値」と「どうしたらノートをうまくとれるようになるか」というお話を少々。
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ノートを工夫して取ることの教育的価値
ノートというのは、ある意味で「頭の中の、情報のあり方」を反映しているようなところがあります。
逆にノートの取り方を変えることで、情報の摂り方、頭の整理の仕方も変わってきます。
このあたり、様々なノート法のノウハウが出回るようになって、ずいぶんと認識されてきているかも知れませんね。
- 罫線にしたがってノートを取る
- 縦線で紙面を分割して、思考のエリアを作る。
- マインドマップでリンクを保ちつつ自由に書く。
- 黒ペン(鉛筆)だけで書く。
- カラフルに書く。
- パソコンなどでタイピングする。
使うツールやスタイルによって、得られる成果は驚くほど変わるものです。
子ども達にも「情報が整理された完成図」としてのノートを意識させることで、間違いなくポイントをつかむのがうまくなります。
ここはどういう記号を使おう、どこに配置しよう、インデントをどうしよう・・・書きながら情報を整理する癖が身につくのです。しかも、受け止めた情報を処理し、出力する過程で、「吟味」「思索」も生まれますし、そこでは「わかったつもり」だったことへの「疑問」が生まれるかも知れませんね。
これは「ノートを取る」という単純作業を越えて、それ自体が学びになる行為に昇華することを意味します。
当然、そのノートを使って復習する段階では、単なる情報ではなく、自分の思考の跡を受け止めるわけですので、記憶と理解を呼び覚ますのも容易になります。
脳科学的観点から見るノートをうまく取ることの難しさ
とはいえ、子ども達に「聞きながらノートを取りなさい」と指示しても、最初はなかなかうまくいきません。
これは高校の授業でやっていた時にも感じたことですが、とりわけ小学生の子ども達にさせてみると、驚くほど「できない」ことに気付かされます。(というか「出来る子と出来ない子の差が極端に大きい」が真実です。)
ノートに文字を書くことは脳を活性化する
音読ブームを作った東北大学・脳科学研究者、川島隆太教授によると、紙に文字を書く作業は脳にとって次のようないい影響があるのだそうです。
- 右脳・左脳両方の前頭前野(理性の司令塔であり、集中力の鍵を握る部位)後半部の広範な活性化が生じる。
- 見たものの形を調べる側頭葉やウェルニッケ野など脳の様々な部位が活性化する。
つまり、ノートに文字を書くことは脳を鍛え、集中力を高める上で非常に効果的だというわけです。
ただ「活性化する」ということは「脳に負荷がかかっている」ということであり、脳にとっては非常に大変な作業でもあるわけです。
だから最初はなかなかうまくいかないし、逆にだからこそやらせる価値があるぞ、と。
「聞きながら書く」ことは、さらに頭を使う
ノートに文字を書くだけでも負荷がかかるのですが、「耳で聞いた内容を、文字に書き留める作業」は、脳科学的に見ると、さらに負荷のかかる作業なのです。
人間は、耳で聞いて口で話す「音韻言語」と、目で見て文字に表す「文字言語」という2つの異なる言語システムを持っています。
この2つのシステムをクロスして使うと脳にとって負荷がかかるのです。
一時期「音読ブーム」が盛り上がりましたが、あれも「目で見て(=文字言語)、声に出す(=音韻言語)」というクロスしたシステムを使う作業だからです。
「耳で聞いて(=音韻言語)、文字に出す(=文字言語)」という作業は音読にも増して負荷が大きいと考えられます。
※参考文献:川島隆太著『音読すれば頭がよくなる』ほか
このように脳にとって負荷のかかる作業である上に、「情報を整理する」となると、また違う負荷がかかるわけです。
そのトレーニングをしないで、社会科見学などに出掛けて、説明してくれるおじさんの話をうまくメモできるわけがありません。
そして、そのまま学校時代を終えた社会人が、うまくメモを取れるとは思えないわけです。
そういう意味でも、「ノートを取る練習」を通じて、「学習のメタスキル」を鍛える価値があると思うのです。
どうしたらうまくノートをとれるようになるか
では、どういうトレーニングをしていったら、子ども達のノートを取る力を高められるのでしょう?
「ノート作り」に必要な構成要素の抽出
まず、総合的なスキルとしての「ノートを取る技術」をいくつかの要素に分解して考えなければなりません。
- 1.集中して聴く。
- 2.耳で聞いた情報を文字に表現する。(意識の入力と出力への分散・並列)
- 3.情報を整理し、ポイントを抽出する。
- 4.複数の情報を整理して、図式・図解化(空間への配置スタイル、矢印、線、マークなどの活用)する。
- 5.完成形のノートの「使い方」から逆算して、機能を設定し、フォーマットを確定する。(ノートの分割、大きさ、縦型・横型の決定、余白の確保)
各要素を磨くためにどんな取り組みが必要か?
1.集中して聴くことに慣れる
非常に当たり前ですが、これが結局のところベースになります。
「集中して」が「りきんで」にすりかわってしまい、ストレスいっぱいに頑張って聴いても頭に残りません。
集中状態を作らせ、リラックスして聴く体制を作らせる必要があります。
ことのばでは集中力を高めるトレーニングをした上で、「高速な音声を聞き取る練習」や「朗読に合わせてシャドウイングする練習」を準備体操的に採り入れて、聴き取る能力の向上を目指しています。
2.聞きながら書くことに慣れる
子ども達は、この作業に普段の学習ではなじんでいません。
あえて「わざわざトレーニングする」必要があるんですね。
「書くことに必死になると、聴けなくなるよね」ということを理解させるために、「がんばって急いで書く」作業をさせたり、「気楽に聴いて、場面のキーワードだけをメモする」作業をさせたりして、徐々にコツをつかませていきます。
3.情報を整理する練習をする
これは小学校2年生から国語の授業でおこなう「段落の要点」を書く作業などを通じて、別途トレーニングしていかなければなりません。
お料理レシピを読ませて、それを分かりやすい図で表現させたり、漫画を読ませて、その内容を言葉で短く表現させたり、いろいろ工夫したトレーニングができますね。
4.模範的なノートを書き写して「型」を作る
学習情報をどう整理するかは、結局のところ「うまいノートをまねる」のが早道です。
参考書や問題集のカラフルな「まとめページ」を丸写しに近い状態でもいいので、ノートに書き写させると、それだけで情報の整理の練習ができますね。
もちろん、それが「単なるコピー作業」にならないような指示の出し方、問いかけ方は工夫しなければなりませんが。
私の教師時代には「ノート作りがうまい人のノートをまねする」ような仕組みを用意していました。
高校1年生の倫理の授業で「授業ノート」を各クラス2冊作り、それを名簿順に輪番で回していました。(自分の順番に当たった生徒2名は、クラスの「授業ノート」と自分のノートと2つ書くことになります。)
単なる「板書の劣化コピー」ではなくとにかく工夫して書け、と。
他の人が見て、おぉ、すごい!となる、そんなノートを工夫しなさい、と。
そしたら、回を重ねる毎に、どんどん、みんなうまくなるんですね。特に女子クラスは。
他の生徒がしている工夫を採り入れつつ、さらに工夫をする。
授業で私がしゃべってないようなことを資料集から「補足」的に書き足す。
生徒達は競い合うように、ノート作りを工夫していました。
このときに、矢印、線、図などのマイルールを作らせるようにすると、情報の関係などを考えながら書くようになりますね!
5.科目や用途によるフォーマットを、指導者が提案する
これについては様々なノート法の本が出ていますので、本屋さんで眺めながらいくつか参考図書を用意しておくことをお勧めします。
小学校6年生くらいになれば、本を見ながら自分で工夫できるでしょうか。
ベネッセなどでは、新年度には模範的なノートの例を写真付きで解説していると思います。
そういうものも、ぜひ有効利用したいところですね!
ちなみに私の勤務していた高校でも、これに倣ってノートのサンプルを「家庭学習の手引き」として入学時に配布していました。(というか私がチーフになって作りました。)
「ノート作りのうまい、成績優秀者」のノートを先生が抽出し、そのコピーに先生が解説を添え、さらに「学習の目的とポイント、予習・復習の仕方」とセットにして。
先生方から「ノート作りの指導が楽になった」とおおむね好評でしたよ。v(^^*
少しずつ「ノートの取り方」の練習をさせましょう!
中学校に入ると、自分で学習する力がなければ成績向上は期待できません。
ぜひ小学校時代から「ノート作り」を意識してみてください。
自分に合ったノートはトライ&エラーの中で作っていくしかありませんからね。
ノートに関するノウハウは、書籍や雑誌にいくらでも紹介されていますので、書店に出掛けたら、ぜひ物色してみてください!