子どもに大学進学を考えさせる上で、もっと大切なこと

小中学生でも、大学進学を希望する割合が高まっているんだそうですよ。
ちょっと古い記事ですが、今年(2015年)3月30日付け日経新聞に、こんな記事がありました。

大学進学希望者を小中学生別にみると、中学生は63.5%で、小学生が54.2%だった。

小学生にとって「大学」というのは未知の世界。
そこに「行こう(行きたい)」と思っているということは、間違いなく家庭での日常会話の中に、大学に行くんだと思わせる話が出ているということでしょう。
 
ちなみに文科省が公表している都道府県別の率で見ると、「やはり」というべきか、東京が最高の72.8%。
最低は、ちょっと意外でしたが鹿児島で35.1%(ラサールと鶴丸があるのに!)。

鹿児島について特筆すべきは、女子の進学率が29.2%で全国ワーストであること。
進学率が3割を切っているのは鹿児島女子だけです。
男女の差が大きい(女子が大幅に低い)のは北海道、埼玉、福井、山梨、鹿児島。
小さい(男女が同率に近い)のは東京、徳島、高知。
その傾向にどういう意味があるのか、風土を調べたくなりますね!

軽く整理すると…

  • 「大学に行こうかな」という気持ちが小学校時代からある。
  • 大企業と大学が集まる大都市圏ほど進学率が高い。
  • 鹿児島を筆頭に、九州各県および地方各県において女子の進学率が低い傾向がある。

これだけのことで因果関係があるとは言えませんが、その他の教育学的知見と照らし合わせてみても「親の影響が大きい」ことは間違いないでしょう。
そして、もちろんその親も、自分の親、あるいは日本ないし地域の習俗に大きな影響を受けている、と。
 
そういえば、鹿児島県知事が今年8月に「高校教育で女の子にサイン、コサイン、タンジェントを教えて何になるのか」「社会の事象とか植物の花や草の名前を教えた方がいい」という暴言を吐いてニュースになりました。
これなんぞ、「つい口が滑った」という失言の類いだと思いますが、まさに「鹿児島の風土」を如実に表してしまっていますよね。
 
ちなみに「女子は理系科目に弱い」というのも、私たち日本人が無意識レベルですり込まれてしまっている思考だとの指摘があります。
 
4月に来日した経済協力開発機構(OECD)事務次長マリ・キヴィニエミ氏は、フィンランドやスウェーデンで女子の方が理系科目の成績がいいことを引き合いに出しつつ、こう語っています

15歳時点では女子の方が成績は優秀だ。だが大多数の国・地域において数学は女子が男子より劣っていた。OECD平均で約10点の差がある。日本は特に得点差が大きい。
(中略)
その一つは『女子は理系に向かない』とする思い込み。教師や親がこう考えて接しているために、本当は能力はあるのに女子は理系科目に自信が持てず、それが成績の低下につながっている。
──日経新聞(2015.04.11)より

自分が子どもに与える影響の大きさは、親であれ教師であれ十分に認識しておきたいものですね。

大学を出た後の現実は…

「大卒だって無職になる そして、ここからが本題なのですが、もし親として「子どもに大学くらい行かせておいた方がいいだろう」という認識であればちょっと注意しておきたいことが、さらに。
『大卒だって無職になる “はたらく”につまずく若者たち』の著者によると、こんな実態があるのだとか。

同書によれば、警察庁は、2011年には、大学生ら150人が、就職活動の悩みを理由に自殺したと発表。また、文部科学省の学校基本調査速報は、大卒者で就職も進学も“できなかった”若者は約8万6000人に上ると推計しているという。
── Diamond online男の健康
  「大学までは順調なのに働くことにつまずく“大卒無業者”になる人の共通点」より

ちなみに、厚生労働省が発表している2014年春の大卒者の実態はこんな感じです。(前年秋の調査であり推計値)

  • 卒業予定者数:56万3千人
  • うち就職希望者数:40万6千人
  • うち就職(内定)者数:38万3千人

さらに、厚労省が公表している大卒者が「3年以内に離職する率」の調査を見ると…

  • 事業規模5人未満:59.6%
  •  〃 5 – 29人:51.5%
  •  〃 30 – 99人:39.0%
  • 中略

  •  〃 1000人以上:22.8%
  • ※すべて2012年卒の大学生が2015年春までに離職した率

過去記事『「塾に通わせる」は子どもへの投資か?』でも書きましたが、今や「大学を出たから、それに見合う就職が得られる」と考えるのは完全な間違いです。

[blogcard url=”https://www.kotonoba.jp/blog/juku-is-not-investment/”]

むしろ、この現実を見る限り、親と社会が用意した「古いレール」を走って行った先には「安住のゴール(就職先)」などないというのが真実。

「大学進学」よりも、もっと大切なことを子どもに与えよう!

就職できない大卒者が多数いて、就職できても簡単に離職してしまう大学生が多数いる現実は、いったいどこに原因を求めればいいのか、私には分かりません。
 
しかし一つだけ確かなことは、「大学を出た後の世界」を視野に入れ、「どう生きていくか」を軸にして進学のことを考えさせておかないと、「こんなはずじゃなかった」という現実が、かなりの高確率でやってくるということです。
 
高校時代までは、学校と塾とで与えられた教材や課題を、ひたすらタスクとしてこなしていれば、自分が本当に希望したかどうかは別として、「とりあえず、どこかその先(大学)」に入れるでしょう。
ただ、それは「モラトリアム期間が延びた」というだけの意味しかない。
 
だから、私たち親世代は子どもに「大学くらい行きなさい」と伝える以上に、もっと伝えておかなければならないことがあるんです。

その社会に出て行く前の猶予(モラトリアム)期間に。
リアルな社会と、自分の人生のリアルを。
 
誰かが用意したレールの上を、何の主体性もなく走っていたら、レールが途切れたときに途方に暮れるよ、と。
「私たちの世代は、それで気楽に安定した社会生活を享受できたけど、あんたらはサバイバル能力が試される社会なんだよ」と。
 
なんだか、親が子に語るホラーな世界の様相ですが、現実の世の中はもっとホラーなんです。
 
親としてちゃんと伝えましょう。勇気を持って。
親として与えられる「救い」なんてあるはずがないんです。
 
そしてそのためにも、私たち自身が、もっと社会観、労働観、人生観、幸せ観といったものをゼロベースで見直して再構築しましょう。親も一生勉強です。子どものためにも。

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フォーカス・リーディング主宰者

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