それでも「早期英語教育は要らない」と言わせてもらおう

「遊びも学びも英語で」というタイトルの記事が、今朝(2015.12.16)の西日本新聞に掲載されています。

志免町の5歳の男の子が英検3級に合格した。男の子が通う宇美町の認定こども園は、ネーティブの講師から生の英語を学ぶというユニークな教育を行っている。英語を身につけ、日本の文化や技術を世界に発信できる人材を育てたいという理念のもと、子ども達は伸び伸びと学んでいる。

確かに5歳で英検3級はすごい。
でも、それはどこにつながる「すごさ」なのかが問題です。
なにしろ、まだ5歳。
 
実際、その子の「英語が出来る」というのは電車にやたらと詳しいとか、バスの路線に詳しいとか、そういうこととあまり変わりなさそうです。
お母さんの談としてこう書かれています。

「その場で日本語の設問を読んでも意味が分からないから、出題パターンを覚えました。」

別にそれを否定するつもりは毛頭ありません。
親御さんが教育熱心なことは分かりますし、子どもさんにしっかりと関わっている素敵な方なんだろうと思います。
 
ただ、子どもの教育に携わる身、高校・大学・社会人という様々な年齢層の教育に携わっている身として、20年後にその子がどういう知性を持った大人になっているのかが気になるだけです。
 
その子は、ちゃんと豊かな日本語、抽象的なレベルに及ぶ深い思考力が身につくのだろうか、と。
 
例えば、その家庭ではテレビの子ども番組も英語の副音声で見せているとのこと。
それは多分、多様な日本語と触れあう時間を損してるよ、と思うわけで。
ま、テレビ番組くらいどうってことないという考え方もあるかも知れません。でも、幼児教育番組って、子どもの注意力をマックスで引き出しつつ、子どもの語彙力をちょっと越えたあたりの言葉をじゃんじゃん浴びせてくれますからね!
 
設立者の方は、この教育について、記事の中でこう語っています。

「日本が持つ文化や技術力を、世界に伍して伝えられるタフな子どもを育てたい。英語はその手段」

素晴らしい理念だと思います。
しかし、一番言葉を吸収していく大切な時期に…? 本末転倒という言葉が浮かぶのは、私が批判的に見過ぎているからでしょうか。(^^;
 
それを補うような日本語教育がしっかりと出来ているのであればいいのですが!

そもそも、なんで英語を子供時代に学ばせる必要があるの?

そもそも幼少期から英語を学ぶ理由がどこにあるのか、私にはさっぱり理解できません。
中学に入ってからだって、大学からだって、英語をマスターできるのに。
 
確かに小学校入学前に英語が飛び交う環境に入り、第二言語として学び始めると、小学校入学後に始めるよりも、格段に英語の習熟度が上がることが研究によって確かめられています。(白畑知彦ら編著『英語習得の「常識」「非常識」』参照)
 
しかし、そこで身についた英語力も、しばらく英語を日常使用しない環境に身を置けば急速に消えてしまいます。
 
第二言語の早期教育支持者であるジャック・メレール博士(現・イタリア国際認知神経科学先端研究所所長)ですら「日本語は“モザイク”と呼ばれる特殊な言語であるうえ、赤ちゃんのころにバイリンガルの環境に置いても、結局待ち構えている社会は単一言語社会なのです」と、否定的ともとれる意見を述べています。(新潮社『赤ちゃん学を知っていますか?』より)
 
そんないつ消えるとも知れないもの、今、特段必要でもないもののために、貴重な「日本語体験」の時間を割いて取り組ませる理由が理解できないわけです。
 
私たちは日本人として日本語をたくさん吸収して、豊かな「言の葉」を茂らせることによってしか思考も感情も豊かにすることができません。その吸収のために重要な時代を、未来のデザインも生育過程の設計もないままに外国語が飛び交う環境で過ごすのであれば、それはとても残念な親のエゴだと思うのです。

同時通訳の第一人者、かく語りき。

私ごときがあーだこーど言っても説得力がないでしょうから、かつてエリツィン大統領の同時通訳者も務めたロシア語通訳の第一人者、米原万里氏の言葉を紹介します。(すべて著書『不実な美女か 貞淑な醜女か』より)

私どもにとっての母語、つまり生まれてこのかた最初に身につけた言語、心情を吐露しモノを考えるときに意識的無意識的に駆使する、支配的で基本的な言語というのは日本語である。(中略)単刀直入に申すならば、日本語が下手な人は、外国語を身につけられるけれども、その日本語の下手さ加減よりもさらに下手にしか身につかない。(P.278)

ロシア人と日本人のハーフの子どもの例を挙げつつ…

日本人のロシア語学習者、とりわけ通訳を目指すような人にとっては、よだれが出るような、一見羨ましい言語学習環境に育った人たちだ。しかし、実際には、日本語もロシア語も、そしていかなる他の言語もまともに身についてはいない。もちろん日常生活に事欠くほどではないが、しかし、少し複雑な抽象的な話になると、お手上げなのである。(P278)

子どもを、英語のみで授業をおこなうインターナショナルスクールに通わせ、家庭でも英語で会話をしている知人のことを挙げつつ…

子供たちが成人する頃になって、重大な過ちを犯していたことに気づくのは、自国の文化的アイデンティティ、外山滋比古氏のいう「個性的基本」を形成し得なかった若い魂が、どれほど不安定で不幸な自我意識に苛まれるかを目の当たりにしてからなのである。

うちの速読講座にいらっしゃった方にも、お子さんをインターナショナルスクールに通わせ、バイリンガルを目指していらっしゃる方がおられました。
しかし数年後、子どもさんが日本の公立中学校に入って、はたと気がつきます…。
漢字もろくに書けず、かといって英語も学校英語の文法的な要素は得意でもなく、単に日本の普通の中学生から遙かに後れを取っている我が子に。
 
この米原さんの文章を読むと、この方のことが頭に浮かびます。今、お子さんはどうなっているかなって。

英語は中学校に入ってからでも十分間に合う!

子ども時代から英語を学ばせていらっしゃる方へ。
 
ぜひ、英語以上に「豊かな日本語」を育むことにエネルギーと時間を割いてください。絵本の読み聞かせとか、名作の読書とか。
さらに言えば、それらのために「外遊び」という子どもの脳の発達にとって一番大切な時間が奪われることがないようにしてくださいね。
 
そして、「英語は早い方がいいのかな?」と考えている親御さんへ。
 
英語は中学校からで十分に間に合いますよ。
というか、英語を学ばせた方がいいのかもというのは、何か根拠があってのことでしょうか?
明確な未来へのデザインがあり、子どももトータルな教育を設計できているなら、それはどうぞ。
 
そうでなく、親のエゴ、親の無知ゆえの将来不安から、子どもの大事な時間を奪うのはとてももったいない話です。プラスになるか不明で、大きなマイナスが発生する可能性は大ですから。
 
まもなく小学校4年生から英語の授業が本格化します。そのタイミングから英語の学習をさせるのは悪くありません。なにしろ現状のままであれば、小学校の英語教育は「ほぼ無意味で無駄」な時間ですからね。
その時間を無駄に終わらせないために、家庭の責任でケアをするという発想はあっていいでしょう。

なにしろ、この新聞記事を読んだ方が、煽られて、のせられちゃって子どもの未来を蝕むことのないよう祈るばかりです。

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