幼児期の教育(早期教育)について、こうした相談を頻繁に受けます。
「幼稚園とか小学校からインターナショナルスクールにやった方がいい?」
「公文に行かせて数字に慣れさせておけばいい?」
などなど、英語や計算、読み書きを小さいうちから習わせる──それが“賢い親の選択”なのではないか…多くの人がそういう強迫観念を持ってしまっているのかも知れません。
でも、最新の教育研究は、まったく違う答えを私たちに投げかけています。
本記事では、複数の学術研究をもとに、
- なぜ“早すぎる学習”は不要なのか
- なぜ“紙の本を読む”という体験が言語と社会性を伸ばすのか
- どんな読書体験・習慣が、子どもの力を最大限に引き出すのか
について丁寧に解説します。
早期教育の効果についての科学的見解
「早期教育」という言葉を耳にすると、多くの保護者が「早く始めた方が有利なのでは?」と感じるかもしれません。特に、英語や計算、読み書きといったスキルを幼児期から習得させることが、将来の学力向上につながると信じられて(というか、喧伝されて)来ましたし…。
しかし、近年の研究は、この直感的な考えに疑問を投げかけています。
1970年代ドイツの調査
例えば、1970年代のドイツで行われた大規模な研究では、遊びを中心とした幼稚園に通った子どもたちと、学術的な指導を受けた子どもたちを比較しました。その結果、小学校4年生になる頃には、遊びを重視した教育を受けた子どもたちの方が、読み書きや数学の能力、さらには社会的・感情的な適応力においても優れていたことが明らかになりました。
この研究結果を受けて、ドイツでは幼稚園教育の方針が見直され、遊びを重視する方向へと転換されたそうです。
アメリカの調査でも小4で効果逆転!
また、アメリカにも同様の研究ががあります。
貧困家庭の子どもたちを対象とした研究ですが、「学習」的なトレーニングを中心としたプレスクールに通った子どもたちは、初期には学力の優位性を示しましたが、4年生の終わりにはその優位性が逆転し、遊びを重視したプレスクールに通った子どもたちの方が成績がよくなっていた、というのです。
さらに、1967年に始まったある実験では、貧困家庭の子どもたちを伝統的な遊び中心型、遊びと指導のバランス型、読み書きと数学に特化した指導型の3つのグループに分けて追跡調査が行われました。
初期には特化指導型のグループが学力で優位に立ちましたが、その効果は短期間で消失。15歳および23歳時点での追跡調査では、特化指導型のグループの子どもたちが他のグループに比べて、社会的・感情的な問題行動を起こす割合が高いことが判明しました。
これらの研究は、幼児期における過度な「学習」的指導が、短期的な学力向上にはつながるものの、長期的には社会的・感情的な発達に悪影響を及ぼす可能性があることを示しています。そのため、早期教育においては、学習的な内容を詰め込むのではなく、遊びや探求、社交を通じた自然な学びの機会を提供することが重要であると考えられるわけです。

実は小学校の宿題ですら、低学年までは効果がないという研究結果もあるんです。もちろん、調査した国の宿題が日本のそれと同じものかどうかは分かりませんが。
すべての学びの土台は「読む力」にあり
── 最高の早期教育としての「読み聞かせ」
「毎晩、子どもに絵本を読んであげる」──それは、どこの家庭にもあるありふれた光景かもしれません。
また、幼稚園・保育園でも読み聞かせは定番のメニューですし、小学校でもボランティアスタッフによる読み聞かせ活動が続いているところも多いようです。

かくいう私も、8年間、月2回ペースで小学校の読み聞かせボランティアをさせていただいていました。
そして、このシンプルな行為が子どもの未来の言語能力を大きく左右することが、数々の研究から明らかになっています。
親子の読み聞かせが「ことばの力」を育てる
1995年、Busらによるメタ分析は、家庭での読み聞かせが子どもの言語能力やリテラシーに与える影響について、それなりに大きな影響があること(「中〜大」の効果量(d ≈ 0.59))を報告しました。
読み聞かせをしてもらった子どもたちは、そうでない子どもたちに比べて、語彙・理解・表現力において有意に優れていたというのです。
加えて、Sénéchal & LeFevre(2002)の縦断研究では、家庭での読み聞かせが、子どもの語彙力の成長、さらには小学校3年生時点での読解力にまで、強く関与していることが確認されています。
ここで重要なのは、「読み聞かせ」という行為は、単に「本(文字)に触れさせる」ための訓練ではないということです。本を読みながら親が子に語りかけ、子がそれに反応し、一緒に笑ったり考えたりする──この言葉を「やりとり」する営みこそが、言語発達の鍵なのです。
学校教育よりも家庭の読み聞かせ?
同研究は、読み聞かせのようなインフォーマルな読書体験(多くは物語!)が、語彙力や読解力の発達に貢献する一方で、アルファベットの暗記や音読練習といったフォーマルな指導は、初期の読みには役立っても、それ以上の効果にはつながりにくいことも明らかにしました。
この点を考えると、日本で見られる「○歳でひらがなマスター」「読み書きドリルで先取り学習」といった早期教育の風潮にも、見直しの余地があるかもしれませんね。
大切なのは、「(何かのスキルを)できるようにする」より前に、「言葉の世界に親しむ」こと。つまり、「本が好き」「お話を聞くのが楽しい」という感覚を育てることが、その後の伸びしろを左右する土台となるのです。
読み聞かせは「話し言葉」よりも質が高い
さらに興味深いのは(そして、私が個人的に重要だと感じることは)読み聞かせ中に親が使う言葉の質が、日常会話よりも圧倒的に豊かであることでしょうか。
Demir-Liraら(2019)の研究では、親が読み聞かせをしているときの言語は、普段の声かけよりも語彙が多様で、文構造も複雑であることがわかっています。
これは、子どもが話し言葉では得られない“書き言葉の世界”に触れる貴重な機会であることを示しています。
たとえば、「おいで、こっち見て」という単語レベルの日常会話的発話ではなく、「小さなうさぎが、森の奥へと静かに歩いていきました」──こうした文法構造を持ち、文章としてつむがれた言葉は、子どもの語彙、文理解力、イメージ力、さらには感情理解にも波及していくのです。
効果的なやり方!量より「体験の質」が重要
では「たくさん読んでやればいいのか?」というと、そんなことはありません。もちろん量も大切ですが、それ以上に求められるのは質の高い関わりです。
もちろん、単にアプリで読み聞かせを「流す」というのはダメ。
- 絵を指差して一緒に話す
- 物語の続きを想像してみる
- 子どものつぶやきに丁寧に返す
こうしたインタラクティブな読書体験が、子どもの言語発達をより確実なものにします。
ちなみに、アメリカの読み聞かせは、日本の読み聞かせとは、かなりテイストが違うのですよ…。単に読み聞かせるだけではなく、インタラクティブな体験にする必要があると考えた方がよさそうですね!

読み聞かせは、最高の「非認知能力」育成術
もう1つ、知っておきたいことがあります。
それは、読み聞かせが言語力だけでなく、集中力・想像力・共感力といった、いわゆる「非認知能力」にも良い影響を与える可能性が示されていることです。
- 静かに話を聞く
- わからない単語に興味をもつ
- 登場人物の気持ちに共感する
──これらはすべて、「生きる力」に直結する力ですよね。
読書は「ことば」と「こころ」を育てる
ここまでで十分にご理解いただけたと思うのですが、読み聞かせは、「単なる読書体験」ではありません。
子どもの中にことばの世界を育て、心の土台をつくる行為なのです。
そして、科学的にも、それが語彙力・読解力・社会的適応力の発達と強く結びついていることが、世界中の研究で裏づけられています。
つまり──「本を読んであげる時間が作る」ことが大切なのではなく、「一緒に物語を旅する日々を、どれだけ積み重ねられるか」が勝負。その親子のインタラクティブなコミュニケーションこそが、子どもにとって何よりの「言語教育」になるのです。
活字から得られる語彙力:「100万語の差」を生む読み聞かせ
「どうして、あの子はそんな言葉を知っているの?」── 子育てをしていると、ときどき驚かされることがあるのではないでしょうか?
手前味噌な話で恐縮ですが、うちの上の息子が保育園の年中さんのクリスマス会の日に、お迎えに行ったときの話です。園長先生が「お父さん、お父さん!」と事務室から出てこられました。
曰く、
「今日ね、クリスマス会だったんですが、朝の集会で子どもたちに「今日は何の日ですかーっ?」と声をかけたら、みんな嬉しそうに「クリスマスでーっす」と声を上げているわけですよ。そんな中で息子さんがすっと手を挙げたので「惟生希君(うちの息子)、今日は何の日か知っていることがありますか?」って聞いたら「今日は冬至です」って答えたんです。そして「冬至について知っていることがあれば教えてください」と続けたら「カボチャの煮付けを食べる風習があって、ゆず湯に入るとその冬、風邪を引かなくなると言われています。」と話してくれたんです。もう、職員一同びっくりしてしまいまして…。お父さんが教えました?」とのこと。
私は教えた記憶がなかったので、息子に「そんなこと、どこで憶えたの?」と聞いたところ、「お父さんとスーパーに買い物に行った時に、お店の中のポスターに書いてあったのを読んだ」というわけです…。その話で、また先生方もびっくりなさっていました。
何気なく口にした言葉が大人顔負けの表現だったり、知らないうちに難しい語彙を使いこなしていたり。
その違いを生むもの──それが、「活字体験の差」です。
絵本には、親が普段使わない“ことば”が詰まっている
研究によれば、絵本に使われている言葉の種類や語彙の豊かさは、日常会話よりも圧倒的に豊かです。
Montagら(2015)の調査では、親が子どもに読み聞かせる絵本の語彙は、親が普段使う会話の約1.7倍の種類の語彙を含んでいると報告されています。
たとえば、大人同士の会話で「うろたえる」や「たたずむ」といった言葉を使う機会はあまりありません。でも、絵本の中ではそうした“日常では出会いにくい語彙”が頻繁に登場します。(大人が読む小説も同じですよね!)
これは、まさに「活字ならでは」の言語体験です。そして、こうした言葉との出会いが、子どもの語彙力を飛躍的に引き上げる鍵となるのです。
「100万語の格差」は、「読み聞かせ」で生まれる
Loganら(2019)の研究では、驚くべき試算が発表されました。もし、毎日5冊の絵本を読み聞かせる家庭と、まったく読み聞かせをしない家庭とを比較すると、5歳になるまでに、前者の子どもは後者よりも“140万語多く”の単語に触れるというのです。
これを「100万語の格差(million word gap)」と呼ぶのだそうですよ。
ちなみに、2018年に翻訳出版されたこちらの本では「3000万語の格差」を主張しています…(汗)

一見、誇張のように見えるかもしれませんし、一日一日の積み重ねる量としては、大したことがないようなレベルに思えるかも知れませんが、この語彙の累積差は、入学時の学力差や読解力差となって現れます。
つまり、日々の読み聞かせは、「言語の貯金」を着実に積み増してくれているというわけです。
「語彙力=知的ツール」という視点
ちなみに、この「語彙」。これこそが、読解力や国語力の鍵を握る重要なものなのです。
語彙力は単なる「知っている言葉の量」ではないのですよ。言ってみれば、思考の幅を広げ、感情を言語化し、自分の考えを他者に伝えるためのツールです。
たとえば、「なんかモヤモヤする…」しか言えなかった子が、「それはきっと、がっかりした気持ちと怒りが混ざっているんだと思う」と言えるようになる。この「語彙の獲得」こそが、内面世界の成長や、自己表現力の発達に不可欠なのです。

高校の国語で必ず学ぶ「羅生門」で、下人がモヤモヤした感情の源泉がどこにあるか分からず、ただにきびをいじってた…という描写がありましたよね。
「語彙力の貧困」は、学力や人間関係にも影を落とす
語彙が少ない子どもは、文章を読んでも意味を正確にとれず、理解が浅くなりがちです。また、自分の感情をうまく言葉にできないことで、友達とのコミュニケーションがすれ違うこともあります。
実際、読書量が少なく語彙力が乏しい子どもは、学力だけでなく、社会的適応力にも困難を抱えやすいという調査報告もあります(OECD・PISA調査など)。
その意味でも、読み聞かせによって幼少期から豊かな語彙環境を整えることは、教育的にも社会的にも重要な投資だと言えるでしょう。
実際、私が速読&読書講座で指導した小学生は、中学校に入って勉強にほとんど困らず、「先生の話を聞いていれば理解できるし、憶えられる」と話してくれた子もいたほどです。
漫画はどうなんだろう?
もちろん、漫画やアニメからも学べることはあります。「活字じゃないから意味がない」とは言いません。私の教室にも「興味と関心の幅を広げる」ための漫画が(特に理科・社会関連で)たくさんそろえてありました。
ただ、それでも「会話調の短い言葉」しか出てこない漫画と、シーンを言葉で丁寧に説明している文章とで、「言葉の蓄積」がどれくらい違いそうかは想像に難くありません。
漫画は興味を広げるきっかけにはなりますが、その後に「広がった興味を多様な読書につなぐ」戦略は持っておきたいものです。
ちなみに、研究によれば、「本をまったく読まない子」と「月に1〜3冊でも活字本を読む子」では、語彙力に大きな差があることがわかっています。(下のグラフの0冊の子と週1冊の子の差に注目!)

「ことばの引き出し」を増やすには、早くから本に触れること
語彙力は、「どんな本に、どれだけ触れたか」という幼少期の読書体験の総量そのものと直結しています。しかも、大きく開いてしまった語彙力の差は1年や2年では埋まりません。

むしろ、語彙が豊富な子は日常生活の中で、テレビの字幕や街中のポスター、新聞、雑誌などあらゆる活字から、どんどん新しい言葉を吸収していくことになりますからね…差は開く一方です。
だからこそ、できるだけ早く、日常の中に「読書」と「読み聞かせ」の時間を組み込むことが重要です。
「読む子」は、語彙力という「語る力」を獲得していきます。
「語れる子」は、自分の思いを社会に伝え、未来を切り拓く力を持ちます。
そのスタートラインを決めるのが、「読み聞かせ」であり、その後にも継続される「読書」なのです。
読書が育む“読む力”と“考える力”:読解・推論・物語理解
「どう?この文章、読めたかな?」と子どもたちに聞くと、たいていの場合、笑顔で「読めた!」と語ります。
でも、内容を質問すると、まったく答えられない…ということがしばしばありました。
実際、「読むこと」と「理解すること」は、似ているようでまったく違う能力です。
文字を目で追えても、内容が頭に入らない──これは大人にもよくある経験ですが、子どもにとってはなおさら。
読解力とは、単に文字を音に変換する技術ではなく、「読んで意味をつかみ、考える力」そのものなのです。
そして、この力は、絵本や物語を「ただ聞く・読む」だけで自然に身につくものではありません。どのように読み、どのように関わるか──その「読みの質」が、読解力を大きく左右します。
語彙が土台、読解が柱──読み聞かせが“意味の地図”をつくる
前章で語彙の重要性をお伝えしましたが、語彙はあくまで「読むための素材」です。本当に重要なのは、その言葉たちを使って文の意味をつかみ、流れを追い、行間を読む力を育てること。
Sénéchalらの研究では、幼児期に語彙が豊かだった子どもは、小学生になったとき読解力が高かったことが示されました。これは「語彙力があるから読める」というよりも、「語彙と一緒に、意味を組み立てる力が育った」と解釈すべきでしょう。
読解力は「対話」と「推論」で育つ
ただし、ここで重要な注意点があります。
読み聞かせの効果は、上にも書いたとおり日本式の読み聞かせにありがちな「ただ聞くだけ」では最大化されない可能性があります。
一方的に読んでもらうよりも、会話をしながら物語を共有することが、読解力の発達に大きく寄与するのです。

読書指導でも、ただ読む時間を確保するだけでなく、その後に「語り合う時間」を確保することがとても重要だとされています。
たとえば──
「この子、どうして泣いちゃったんだろうね?」
「さっきの場面と今の場面、どこが違うかな?」
「もし自分だったら、どう思う?」
こうした問いかけは、子どもに「想像する」「関係づける」「因果を考える」ことを促します。
これこそが、まさに読解力の核である「推論力」「メタ認知」「状況理解」を育てる関わりなのです。
読み方の違いが「学びの成果」の差を生む
PISA(国際学力調査)などの国際的研究でも、「読書量が多い=成績が良い」とは限らないことが示されています。むしろ、“どう読んでいるか”が、“どれだけ読むか”以上に成果を左右しているのです。
たとえば、同じように毎日10分ずつ本を読んでいても、ただ文字を追うだけの子と、意味をつかみながら読み、わからないところを考えながら読む子とでは、数年後の成績に明確な差が出るというデータがあります。

これは残念ながら、外から観察していても分からないことが多いのですよ…。(汗)
つまり、読書習慣を持たせるだけでは足りない、ということ。
子ども自身が「どうやって読めば、より深く理解できるのか」を知る── この読書ストラテジー(読みの戦略)を体得することが、後の学力を大きく左右します。
読書で育つ「考える力」──記憶ではなく、意味とつながりをつくる力
読書を「言葉を覚える」だけの作業にしたらもったいない、ということですね。むしろ、「問いに向き合い、意味を見出し、仮説を立てる」──そんな思考の訓練にしたいところです。

残念ながら日本の学校教育では「教科書というのは、重要語句(太字)を憶えるためのテキスト」という程度の位置づけになっていますが…
読書を通じて子どもは、
- 時系列を整理し
- 因果関係を推論し
- 登場人物の心理を読み取り
- 自分の考えと照らし合わせる
といった「読む・考える・つなげる」一連のプロセスを繰り返します。
この積み重ねが、やがて論理的に考える力、思考の深さ、表現力へと発展していくのです。(そういう指導を「戦略」として用意しないとダメよ、という話でもあります。)

アメリカの小学校では、これらを促すための書き込み式のワークシートを用意して、思考と言語化を促す取り組みがたくさんなされています。
読書が「思考のインフラ」をつくる
読解力の重要性を「学力の基礎だから」というレベルで理解するのはナンセンスかも知れません。むしろ、社会に出てからも必要とされる「思考のインフラ」とでも言うべきものなのです。
情報を読み取り、真意を見抜き、自分なりに考え、伝える。
このような力を、幼いころから自然な形で養っていく──絵本や読み聞かせ、そして読書体験が、その入り口になり得るのです。
読書を、「文字を読む」以上の豊かな体験に!
読み聞かせや子ども自身の読書体験は、「まだ自分では読めない子」にとっても、「読む力を育てる下地」として極めて重要です。
だからこそ、「宿題だから」ということで、機械的に音読練習をさせるような事態は避けたいものです。「読ませたから大丈夫」という責任放棄も。
子どもたちの思考のインフラが育つようなアドバイスと語りかけをすること。そして、子どもたち自身の力で語彙という部品を集め、意味をつなぎ、文脈から考える力が育まれる──そういうプロセスで、「読む力」と「考える力」の土台を作っていきたいものです。
そして、だからこそ、子どもが自力で本を読むようになる“前”から、大人が読書体験を共有することが、大きな意味を持つといえるのです。
心も育てる読書:共感力と社会性の発達
読書のさらに大きな価値。それは自分の知らない世界の疑似体験にあると言っていいでしょう。
本の中には、他者の感情や立場を想像し、自分とは異なる世界に触れるチャンスが詰まっています。
本を読むことは、「誰かの人生を追体験する」ことでもあり、ここに「知性」だけでなく、「感性」や「人間力」も育てる鍵があるのです。
絵本の中で、子どもは「他者の心」を旅している
物語の中で、主人公は泣いたり、怒ったり、傷ついたりします。
時には失敗し、時には勇気を出し、誰かを助けたりもします。
それを見ている子どもたちは、
「どうしてこの子はこんな行動をしたんだろう?」
「もし自分だったら、同じことをしたかな?」
と、無意識のうちに「心のシミュレーション」をしているのです。
これは、心理学でいう「心の理論(Theory of Mind)」の発達に深く関わります。

「心の理論」とは、他者の意識・心情を推測し、それに伴う行動を予測する能力のことを指します。
読書量と「共感力」のあいだにある関係
Marら(2010, 2014)の研究では、幼少期にたくさんの物語に触れていた子どもほど、他人の気持ちを推測したり、立場を想像したりする力が高いという結果が出ています。
特に、読み聞かせの多い家庭では、子どもが他者の視点を持ちやすくなる傾向がありました。
これは、絵本の多くが“感情の物語”であることと関係しています。
実際、ある分析では、幼児向け絵本の約75%に登場人物の感情や心の状態に関する描写が含まれていたと報告されています。
「なぜ悲しいの?」「どんな気持ち?」──問いかけが心を育てる
読書中、大人が子どもにこんなふうに問いかけることがあります。
「この子、どうして泣いているのかな?」
「怒ってるってことは、どういうことだろう?」
「このページの顔、どんな気持ちに見える?」
こうした声かけは、ただ物語の理解を促すだけでなく、子どもの「感情語彙」と「心の視点」を育てる効果があります。
感情を言葉で説明できるようになると、子どもは自分の気持ちも他人の気持ちも整理しやすくなります。これは、人間関係・自己制御・問題解決など、あらゆる社会的スキルの基盤です。
読書はEQを高める最高の教材!
実際の世界では、他人の感情を深く読み取ることは難しく、時に痛みを伴うこともあります。しかし、物語の世界では、安心して誰かの気持ちに入り込み、試行錯誤することができます。
「失敗したら、どうなるんだろう?」
「この選択は正しかったのかな?」
こうした問いを、フィクションの中で何度も経験できるのが読書の魅力。
これは、感情の安全地帯であり、感情知性(EQ)を磨く最高の教材でもあります。
共感力が高い子どもは、
- 友達とのトラブルが少ない
- いじめを止められる
- 助けを必要とする人に気づける
といった傾向があることも、複数の研究から報告されています。
つまり、読書は知識(知性)の投資であると同時に、人としての「他者感覚」を育てる貯金でもあるのです。
読書が「人としての深さ」をつくる
子どもが本を読むとき、それは文字を追う行為ではなく、誰かの気持ちに出会い、世界を広げ、自分の枠を超えていくプロセスでもあります。
そう考えると、「読み聞かせ」は単なる学習支援ではなさそうですよね!
「この世界には、自分とはちがう人がいる」という気づきを生み出すプロセス。“共感する力”と“違いを理解する感性”を、物語を通して子どもに手渡す時間なのです。

だからこそ、子どもに気付いて欲しい視点を、問いかけることで持たせてやることはいいことなのですよ!
書き言葉 vs. 話し言葉:読書体験でしか得られない文語の世界
「毎日たくさん話しかけていれば、自然とことばは育つ」──これは確かに間違いではありません。むしろ、例えば一言で叱りつけるのではなく、丁寧に理由や相手の立場を語り、諭すことで知性が育つという言い方がされることもあります。
しかし、「話し言葉」と「書き言葉」では、子どもが触れる言葉の質がまったく異なることも間違いない事実なのです。
実は、子どもの語彙力や文理解力、思考力を大きく育てるのは、家庭内での会話ではなく、「活字化された言葉」であるという研究が増えています。
書き言葉には、話し言葉にない“深さ”がある
日常会話は、「今・ここ・目の前」のことを扱うのが基本です。
「今日は寒いね」
「おもちゃ、片付けてね」
「ジュース飲む?」
一方、絵本や物語に出てくるのは──
「冷たい風が、森を吹き抜けていきました」
「ひとりぼっちになったうさぎは、ぽつんと立ちすくんでいました」
この違い、明らかですよね。
書き言葉は、時間や空間を超えて、抽象的な意味や感情を表現する構文や語彙を多く含んでいるのです。
子どもが本を通じて触れるのは、「今ここ」ではなく、「どこか知らない世界」の言葉だというわけです。
書き言葉は「学びのことば」である
Demir-Liraら(2019)の研究では、親が読み聞かせをしているときに使う語彙や文構造は、普段の会話よりも明らかに複雑で抽象的であることが観察されました。
ということは、読書体験というのは「情緒的なふれあい」の基本を作る営みでもあり、同時に「学びの言語トレーニング」とでも言うべきものだということです。
たとえば、学校の教科書や説明文で使われるような言葉──「要するに」「したがって」「逆に言えば」「具体的には」──これらはすべて、書き言葉に慣れていない子にとっては外国語のように感じられます。
しかし、絵本や物語を通じて書き言葉に親しんでいる子は、こうした文脈語彙や論理構造を自然と理解できるようになるのです。
書き言葉が育てる「思考の枠組み」
書き言葉は、「誰かと共にいる今」の文脈を前提としません。だからこそ、書かれた文章を読むには、内容を「頭の中で再構成する」力=想像力や論理力が必要になります。
- 主語と述語の関係を理解する
- 代名詞が指すものを推測する
- 複文構造を分解して意味をつかむ
──これらの読みのプロセスを繰り返すうちに、子どもは「見えないものを理解する」訓練を自然と積んでいくのです。話し言葉だけでは得られにくい、目に見えない関係性や抽象概念を理解する力は、まさに読書体験の中でこそ育つのです。

その一方で、日本語は「てにをは(助詞)」があるため、丁寧に指導しなくても「感覚的に分かる」ために「読めば分かるはず」という思い込みがあるように感じられます。
それで、日本は諸外国と比較して、言葉を扱うトレーニングがぞんざいに扱われているように思えて仕方ありません。読解トレーニングや読書指導の不在が、その表れではなかろうかと…
「活字慣れ」が、学びのハードルを下げる
小学校中学年以降、学習の内容はどんどん抽象化していきます。算数の文章題、理科の説明文、社会の資料文──これらはすべて、「書き言葉」で書かれています。
つまり、「活字に慣れていない」子どもにとって、学校での学びそのものが負荷になるのです。

私の経験では、読書量、言葉のトレーニングが不足している子の「勉強が苦手」という感覚は、だいたい小学校5年生に生まれているように感じています。
逆に、幼い頃から絵本や読み物に親しんできた子どもは、「書かれた文章を読み取り、理解する」という行為に心理的な抵抗がなく、むしろ自然に思考を展開できるのです。
「活字慣れ」と「活字離れ」── 一文字の違いですが、それが導く結果はとても大きなものであることが分かります。
「書き言葉」と「話し言葉」はどちらも大切──でも役割が違う
もちろん、家庭での会話や語りかけも、子どもの言語発達には不可欠です。
ただし、それはあくまで「言葉の感覚をつかむ」ためのベースであり、受け皿作りとでもいうべきもの。
一方、書き言葉は、ことばを使って考えるための訓練です。
だからこそ、「よくしゃべる=ことばが育っている」ではないという視点を持つことが大切です。「話せるけど読めない」「聞けるけど理解が浅い」という子どもが増えている現実にも、注目すべきなのです。

知的障害を持った子も、口は達者であることも多く、そのために親が我が子の障がいを認めきれない…という現実もあるように思います。(中学校教師時代に辛い体験をしました…)
「読み聞かせ」は、話し言葉を超えていく経験
ですから、「読み聞かせ」にはさらなる機能を見出す必要がありそうです。それは「書き言葉という異なる言語世界への通訳」としての役割です。
「書かれたことばの美しさや深さ、文脈の構造、論理の筋道」を、親が橋渡しすることによって、子どもは、「読む力」と「考える力」を支える第二の言語=書き言葉に触れていくのです。
特に日本語は「話し言葉」と「書き言葉」が外国語レベルで違う様式を持っていることが指摘されています。これは書き言葉が(言文一致が進んだとはいえ)漢文から発展してきた言語であることが一つの理由だと考えられます。
この貴重な体験は、家庭でこそ、日々の積み重ねとして実現できます。だからこそ、家庭での読み聞かせは、最初で最大の「読解教育」なのです。
多様なジャンルと読書難易度:広く深い言語力を育む鍵
「うちの子は本が好きです。毎日マンガを読んでいます」
「図鑑ばかりで、物語にはあまり興味がなくて…」
子どもがどんな本を読むかは、親としても気になるところ。実際、注目したいのは、「読んだ本の量」以上に、「読書の幅」と「読書の質」が子どもの力を大きく左右するという点です。
読書教育先進国アメリカでは、下の図のような読書のジャンルの幅を視覚化するシートを使って、子どもたちに「様々なジャンルの本を読む」ことを推奨している先生も多いということです。

ジャンルの多様性が「ことばの深さ」を育てる
上の図中に出てくるのは「ファンタジー」「ミステリー」「フィクション」「冒険物語」「SF」「歴史小説」「伝記・ノンフィクション」「詩」という8ジャンル ── ジャンルが違えば、語彙も文体も、表現される世界も大きく異なります。
たとえば、
- 物語は「因果関係」や「感情表現」に富み、登場人物の心理を読む力が育ちます。
- 図鑑や情報絵本では「専門語彙」や「説明文構造」を理解する力が育ちます。
- 詩や俳句からは、「リズム」「象徴」「イメージ言語」など、感性と言語をつなぐ回路が養われます。
こういったジャンルを横断して読む体験こそが、子どもの言語的柔軟性を育てるのです。
「読む幅の広さ」は、読解力の“奥行き”になる
読書において、「広く読むこと」と「深く読むこと」は、決して相反しません。むしろ、さまざまな文体や構造を経験することが、理解力と分析力の「厚み」をつくっていくと考えられます。
Duke(2000)による調査では、幼児教育の現場において情報系テキストの割合が極端に少ないことが指摘され、その後、多くの教育関係者が「物語中心の読書偏重」を見直す動きへとつながりました。

日本の高校国語教育でも似た騒動が最近ありましたっけ…
多様なジャンルの本に触れることで、子どもは「読むこと=一つの形ではない」と知り、「文を読む」力から、「構造を読み取る」力へとステップアップしていきます。
あえて“難しい本”に挑戦する意味
「うちの子にはまだ難しいかも…」─ そう思って避けてしまいがちな、少し背伸びした本。
でも、実はこの「ちょっと難しい本」を「読み聞かせで一緒に読む」ことが、非常に有効であると分かっています。
Vygotsky(ヴィゴツキー)の理論で言うところの「発達の最近接領域」にあたる、“自力では届かないが、大人の支援があれば理解できる”レベルの本が、子どもの能力をもっとも伸ばすのです。
ジャンルだけでなく、「難しい本」にも立ち向かわせたいところ。そして「難しい本」とは必ずしも長い本や漢字が多い本とは限りません。
- 聞き慣れない語彙が出てくる
- 文構造が複雑(長文や複文が多い)
- 抽象的なテーマや象徴表現を含む
このような本に触れることで、子どもは「読みの筋力」とでもいう力を鍛える機会を得ます。
大人の読み聞かせや、意味の確認をしながらの対話、そしてそこから発展的に広がっていく読書体験を通して、「難しいけれど、わかる」「わかると面白い」という体験を積み重ねることが、学びの耐性と言語的レジリエンスを育てるのです。
そして同時に「がんばって分かる」体験を繰り返すことで、子どもたちは読書に対する「自己効力感」を高めていき、これが「読書へのモチベーション」を支えてくれるのです。
「好き」と「未知」のバランスが、世界を広げる
好きなジャンルを深堀りすることも、もちろん大切です。けれど、そこに少しずつ「未知のジャンル」や「挑戦的な本」を混ぜていくことが、子どもの世界を“縦にも横にも”広げるきっかけになります。
たとえば──
- 昆虫図鑑ばかり読む子に、虫を主人公にした物語を
- ファンタジー好きな子に、科学的テーマの小説を
- 推理小説好きの子に、論理的に書かれたエッセイを
こうした「架け橋的読書体験」が、ジャンルの越境と語彙の広がりを生み出してくれます。
そこに求められるのは、大人からのアドバイスであり、親子で図書館や本屋を巡る体験です。
ジャンルの幅と負荷の高さが、“読む力”の上限を引き上げる
先に出したグラフからも読み取れる問題でもあるのですが…
これです⇒
「たくさん読んでいるのに、成績が伸びない」
「本好きだけど、語彙が浅い気がする」
そんな悩みの背景には、「読書の質と幅」が関係していることが少なくありません。
そういう時に必要なことは、
- ジャンルを広げること
- 少し難しい本にも挑戦すること
- 読後に一緒に話し合うこと
これらはすべて学術的な調査・研究で、その効果が実証されている取り組みです。
これらのことを意識することで、単なる読書習慣を、「言葉の力」に変えていく読書体験へと進化させることができるのです。
スマホ時代の読書環境:紙の本がもたらす対話の価値
かつて、絵本の時間は“親子のふれあい”の象徴でした。しかし今、とても残念なことに、多くの家庭では、絵本の代わりにスマートフォンやタブレットがその時間を埋めつつあります。

いや、子育て、主夫業をしてきた身としては、このスマホ育児のありがたさは身に染みて感じているんですが!
もちろん、デジタル絵本や知育アプリにも良い面はあります。
けれど、研究が明らかにしつつあるのは、「デジタルの読み聞かせ」と「紙の本での読み聞かせ」には、決定的な違いがあるということです。
紙の本は、“ことばのキャッチボール”を生む
Munzerら(2019)の研究では、2〜3歳の子どもと親が、
・紙の絵本
・シンプルな電子書籍(e-book)
・音やアニメーション付きの電子書籍(enhanced e-book)
の3種類の本を読むときの親子のやり取りを比較しました。
その結果、もっとも多くの対話・ふれあい・感情共有が生まれたのは、紙の絵本を読んでいるときだったのです。
電子書籍では、ボタンやアニメに注意が向いてしまい、「ページの中身より、画面操作の話題」が増え、本来の「ことばのやり取り」が減少していました。
アニメーションや音声ガイド付きの絵本は、子どもにとって魅力的に映るかもしれません。しかし、それは往々にして「受動的な刺激」であり、子どもが想像する前に、“答え”や“演出”が提示されてしまう構造になっています。
結果として、
- 登場人物の気持ちを考える
- 物語の先を予測する
- ページをめくるタイミングを親子で共有する
といった、読書に必要な「主体的な関与」が起こりにくくなるのです。

最近の脳科学的な研究からはデジタルメディアと紙とでは脳の活性化する場所、集中力の程度が違うことも確かめられています。(だからデジタルはよくない、というのが仮説的な結論です。)
スマホ育児が奪っているのは、“対話の時間”
さらに深刻なのは、親自身がスマートフォンに気を取られてしまうケースです。SNSや仕事の通知、ニュースのチェックなどで、子どもの語りかけに対する「反応の遅れ」や「視線の不在」が起こります。
このような「テクノフェレンス(technoference)」──つまり、「テクノロジーによる親子関係への干渉」は、子どもの語彙発達や情緒安定にマイナスの影響を与えることが、近年の研究で指摘されています(McDaniel & Radesky, 2018)。
紙の本には、ボタンも通知も音もありません。その静けさの中で、親と子は「物語」にだけ集中し、
- ページをめくるタイミング
- セリフの抑揚
- 感情のこもったつぶやき
といった、五感でつながる読書体験を分かち合うことができます。
この「共同注意」の時間が、子どもの心と言葉をもっとも豊かに育てる土壌なのです。
「紙かデジタルか」ではなく、「誰と、どう読むか」
もちろん、すべてのデジタルメディアが悪いわけではありません。電子絵本でも、親子で会話をしながら読めば、十分に効果があります。
けれど、重要なのは「ツール」よりも「関わり方」。
- スマホに預けるのか、一緒に覗くのか
- 黙って流すのか、声をかけ合うのか
この違いが、読書体験を「単なるコンテンツ消費」で終わらせるのか、「言葉の学びと心の育ち」へとつなげるのかを分けるのです。
情報も絵本も、アプリで手に入る時代。でもだからこそ、手触りのあるページを、誰かと一緒にめくる時間の価値を見直すことが求められているのです。
読み聞かせとは、情報を与えるのではなく、心を重ね、言葉を響かせる行為。その豊かさを、デジタルに奪われてしまう前に──ほんの15分でも、紙の本を開く時間を取り戻すことから始めてみませんか?
まとめ:読書習慣こそ、最高の早期教育
「早期教育は必要か?」── この問いに対して、今回ご紹介してきた研究結果や知見は、はっきりとした方向性を示してくれました。
それは──「学力を早く伸ばすこと」ではなく、「言葉と心を、豊かに育てる環境を整えること」こそが、本質的な早期教育であるということです。
読書がもたらす確かな効果
これまでの章でご紹介してきたように、幼少期の読書体験には、次のような効果があることがわかっています:
- 語彙力の飛躍的な発達(100万語の格差を生む)
- 文理解力・読解力の向上(語彙を活用した思考力)
- 共感力・社会性の育成(他者の心を想像する力)
- 論理的・抽象的思考の訓練(書き言葉との出会い)
- 多様な世界に触れる柔軟性(ジャンル・難易度の多様化)
- 親子のふれあいと共同注意の時間(紙の本がもたらす対話)
これらはすべて、テストの点数では測りきれない、“生きる力”そのものです。
早期教育の誤解:「できるようにする」より「好きにさせる」
子どもにとっての読書体験は、学習でも訓練でもありません。それは、物語を楽しみ、想像し、誰かと共有する「感情の旅」です。
にもかかわらず、「早く読めるようにしよう」「先に覚えさせよう」といった教育が優先されると、その豊かで自由な世界が、「勉強」「義務」になってしまいます。
読み聞かせも、自分で読む時間も、最初は「できるようにさせる」ことよりも、「本を好きになる”体験を積み重ねること」が何より大切なのです。
「読み聞かせ」は、小さな投資で、大きな成果を生む
高価な知育玩具も、早期英語教育も、習い事も、それなりの時間とコストがかかります。でも ── 一冊の絵本と、親の声があれば始められる読書体験は、ほとんどお金をかけずに、子どもの未来に確かな影響を与えます。
読み聞かせは、「教育」ではなく「習慣」であり、そしてそれは、親にとっても「癒しの時間」「対話の時間」となる贈り物です。
読書習慣は、「未来の学び」への贈り物
「教育ではない」と言った下が乾かぬうちに言うのも気が引けますが── 間違いなく、読書は子どもにとって最初の「学びのインフラ」です。
たとえば、
- 意味を理解しながら読む力
- わからない言葉を文脈から推測する力
- 物語から構造や因果をつかむ力
- 他者の視点を想像し、感情に共鳴する力
これらすべては、後のすべての学習、対人関係、社会参加において欠かせないスキルです。
そしてそれは、「小さな読み聞かせ」から静かに始まっているのです。
今日から、ほんの1冊から
もし、この記事をここまで読んでくださったなら、もうあなたは「最良の早期教育」の入り口に立っています。
今日から、ほんの1冊でいいのです。いや、5分でも、10分でも構いません。
子どもと一緒に、声を出して、ページをめくってみてください。
その時間が、きっと10年後、20年後の子どもの世界を支える「言葉と心の土台」になります。
それは「教育」なんて考える必要もないくらい、豊かで癒やされる時間になるはずです。それが未来を作ってくれるなんて、最高ではありませんか!
p.s.読み聞かせの時期を過ぎたら…
保育園・幼稚園時代の読み聞かせは熱心だったのに、小学校に入学したとたんに「本も読んでおきなさいよ」と放置したり、逆に入学前の「楽しんで読む」だけで留まったり…
子どもの読書・読解力をどう育んでいけばいいのか、分からないことだらけです。
そこで、こんな小冊子を作りました。
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参考文献
参考文献一覧
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