「塾に通わせる」は子どもへの投資か?

2025年現在、福岡県の私立・国立中学校の在籍者は、全中学生の4.9%だそうです。
20人に1人が中学校受験を経験している計算です。

受験となれば、まぁ普通は塾に通います。
我が家のように塾に通わずに受験する子は珍しいでしょうから。
受験をしない場合でも、都市部では塾に通わせる家庭が多いわけで、小中学生のかなりの割合の子が塾に通って勉強をしているわけです。

一般論として「通塾」というのは、広い意味での「進路=生き方の選択」の中で「進学」を意図した投資です。

「少しでもいい高校・大学に行かせたい。そのために塾へ。」── そんな親心です。

ただ、通塾が「子どもの将来への投資」として機能した時代は20世紀で終わったのではないかと思うわけです。
むしろマイナス投資になっているようにすら思えます。

もちろん、塾に通って入試対策をすることは、「より偏差値の高い高校・大学」に合格させるという意味で、未だに有効な手立てであることは間違いありません。
そういう高校・大学に入ることが、必ずしもその子の将来を保証しないという話なのです。

目次

「パイプライン・システム」の終焉

ハーバード大学研究員のダニエル・ヤンミンとチャン・マイミンが、戦後の日本教育のシステムを「パイプライン・システム」と表現したことがあります。

パイプの中の流れに身を任せていれば、途中途中の分岐点(受験)で多少の努力は必要になるものの、分岐点での努力に見合うゴール、すなわち就職まで流れついてしまうというのです。

就職がゴール。
そこから先は大きなへまさえしなければ、終身雇用と年功序列賃金で一生安泰でした。

だから昔から(いや、未だに)受験勉強というのは「将来、苦しまなくていいように」という、苦労の先取りの体験だったわけです。

── それがいつしか機能しなくなっています。

大学を卒業しても、スーパーのレジ打ちをするはめになることがあります。
大学院を卒業しても、専門職に就けないことがあります。
かろうじて専門的な仕事に就けたとしても、正社員になれず、将来が保証されないことがあります。
正社員になったとしても、会社が倒産したり、突然、解雇されたりといった事態がおこります。

これまでのやり方に倣って分岐点で努力をしてもゴールがない、パイプからこぼれおちる。── そんな時代になったわけです。

がんばっても報われない…「希望格差」はどこから生まれたのか?

努力して勉強をしても未来が保証されず、将来に希望が持てない今の社会状況を「希望格差」と、中央大学教授山田昌弘氏は表現しています。

従来通りのシステムで、豊かな生活・将来が保証される人たちがいる一方で、そうでない人たちが大勢でてきているのです。

  • 受験でがんばったのに、就職が保証されない。
  • 仕事でがんばっているのに正社員になれない、賃金が安い、給料が上がらない。

そんな「希望のなさ」が「勉強する気」を奪い、学力低下を招いているのではないかと先の山田教授は指摘します。

でも「受験でがんばった」ことが「就職を保証しない」ことは、考えてみれば当然のこと
風が吹いても桶屋が儲かることを保証しないのと同じ理屈です。

就職を保証したければ、就職活動でがんばればいい。
正社員になりたい、賃金を上げてもらいたいと思えば、それに見合う努力をしたらいい。
転職したっていい。起業したっていい。

がんばり方を間違えれば報われない。それだけの話です。

パイプライン・システムも終身雇用も年功賃金も、戦後日本の高度経済成長期という、人類史上非常に珍しい時代に作られた過去の遺物

時代も世界も変わり、働き方がかわったのに「教育への考え方」だけが20世紀のままフリーズ。

山田氏の語る「希望格差」が生まれるわけです。
その元凶はずばり「親のずれた投資感覚」です。

「塾に通う」ことがマイナス投資である、という理由

学習塾は上位の学校に合格するための力(テクニック)を授けてくれます。
そして、非常に残念なことに、その力は受験以外ではほとんど役に立ちません

むしろ、高校の教壇に立っていた頃の経験でいえば、受験ノウハウのしっかりした塾で学んできた生徒ほど、自ら学ぶ力を損なっていることが多い。

だから、高校に合格しても通塾を辞められない。
挙げ句の果てには「就職活動」まで塾で学ぶ。

まさに中毒。依存症です。

  • 問題には正解があるという幻想。
  • 「何が大事か」は誰かに教えてもらえるという幻想。
  • 人生の難題は、克服の仕方を教えてもらえるという幻想。
  • 与えられた課題をこなしていれば未来が開けるという幻想。

塾に通うことでこれらの幻想に溺れ、現実世界を生き抜く力を失っていくのです。
そのデメリットとリスクの方にこそ目を向けるべきでしょう。

真の「進路保証」とは、サバイバル能力を身につけさせること

「進路を保証する」とは「目の前の高校・大学に合格させる」ことではありません。

その子が自分の生きる道を見いだし、自分の力で自分の人生を切り開いていく力を与えることです。
そこには「時代も社会も、その中のルールも変わるものだ」という前提があります。

―Itʼs not the strongest species nor the most intelligent that survive,
 but the one most responsive to change.
(最も強いモノでも、最も賢いモノでもない。
 最も変化に適応できたものこそが生き残るのだ。)

このダーウィンが語ったとされる(実は違うのですが…)言葉は、決して動物の世界だけに言えることではありません。

生き抜く力、すなわちサバイバル能力を授けることこそが真の「進路保証」── だとすると、私たちは子どもに何をどう学ばせたらいいのか?
親は、そのことを十分に考えた上で、子どもに投資しなければなりませんね。

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