女性さん説明会の時におっしゃっていた、「数回の指導だけで点数がアップした」という生徒さんのお話。
あれは実際、どのような指導をしたのでしょうか? 何か観て参考に出来る映像教材があれば教えてください!
ことのば式のコーチングを学んでくださっている方から、こんな質問が届きました。
── 大変申し訳ないのですが、そんな場面はありません。実際、「これで点数が上がった」といえるような技は、どこにもありません。
私たちは、成果の理由を「技」の中に探してしまう
もちろん、質問者を責める意図は毛頭ありません。私たちは誰しも、同じような思考回路を持ち合わせていますから。
何か特別な成果を見ると、反射的に「どんなテクニックを教えたのか」を探してしまう。
特別な発問か、うまい説明か、裏技的な解法か──。教えた中身(解説)、あるいは教え方のどこかに決定的な要因があるはずだ、と考えてしまいます。
ひょっとすると、あなたも「その一手」を探しながら高速学習講座の教材映像を観ているかも知れません。
ですが、教材の中で繰り返し説明しているのは、「教科の中身(解説やテクニック)」ではありません。
実際に渡したのは、3つだけでした
ことのばの教室のチラシに掲載しているこの実績。どちらも「90分×3回の指導」としています。
そして、このような実績はこの2人だけではありません。ありふれすぎているので、代表して2人だけを載せています。


では、この2人に指導した「3つ」とは何だったのか?
- R3(アールキューブ)戦略の学習手順
- テストまでの3週間の計画
- 「このパターンでやり切るのだよ」という約束
これだけ。
3つとも、「教科の中身」ではありません。解法でもテクニックでもない。学習の終わり方と、そこまでの手順——それだけです。
そして90分の中で、丁寧に繰り返し伝えたのは次の3点でした。
- 学習を終えるのは「完全に憶えた(スムーズに正解できた)」と思えたタイミングであること。
- 間違えた問題は必ずR3でやり直すこと。
- 最後の仕上げに入るまでは、問題を解くことに時間をかけないこと。
教室に来て指導を受ける時間は「その後の家庭学習の仕組みをインストールする時間」であって、何かを学ぶ時間ではないので、3回で十分なのです。
一人の子(男子)に至っては、2回目の指導の後、サボって勉強をしていなかったので、3回目の指導の時は30分以上説教をしました。
最重要ポイントは「終わり方」の定義
学校の宿題や復習をする場合、一番避けなければならないのは、「気分」で終わりを決めることです。
「おれ、がんばった!」
「大変だったけど、3時間やった!」
——この主観的な気分で教材を閉じると、せっかく時間をかけて学んだことが、しっかり完成・定着しないまま「終わったこと」にされてしまいます。
成果が出ずに苦しんでいる子ほど、「(自分なりに)がんばったのに…」と感じているものです。
ですから、完了の基準は状態で定義します。
- 理科・社会なら、テキストで学んだ内容を参照せずにざっくり再生できること。
- 一問一答式の問題にスムーズに正解できること。
- 数学なら、基本/標準問題をスムーズに解けて正解できること。
- 英語なら、教科書本文を完全に暗唱し、正確に書き出せること。
「時間が来たから」でも「がんばったから」でもない。「スムーズに正解できる」から終わりです。
教育心理学等では、これを基準到達(criterion)で終えるといいます。
ヒトコトでいうなら「全部スムーズに正解できる状態で、学習を終える」ということであり、復習の頻度や間隔も、この状態を前提に考えます。
これには理由があります。
多くの人は「一度思い出せた」とか「だいたい想い出せた(想い出せそう)」という手応えで「もう大丈夫」と判断し、練習を打ち切ってしまいます(Karpicke, 2009)。
自己判断はたいていの場合、甘い方向に流れます。
だから到達基準は、気分ではなく状態で設定(定義)する必要があるのです。
世間の学習法は、ここを「こなした量」で測ろうとします。
ワークを3周。学年×50分。1日1時間。英文を10回ずつ書く。
──測る単位は違っても、すべて「どれだけこなしたか(入力したか)」の話です。
ちなみに、東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所の共同調査では、中学生の成績上位層と中位層で、1日の学習時間の差はわずか9分でした。差がついていたのは「テストで間違えた問題をやり直す」「何がわかっていないか確かめながら勉強する」といった項目です。
行動量ではなく、自分の状態を確かめる行動だったわけです。
ことのば式「指導者の10原則」の中に「第3:完了基準を明確化せよ」という言葉があるのですが、まさにこのことなのです。
欠点連発の高校生が1週間だけ指導を受けに来たことがありましたが、その時の指導も同じでした。
「指定された範囲の問題を解いて、答え合わせをして、正解を確認したら終わり」で終わらせていた勉強を、「間違えた問題を、1時間後に自力で解き直し正解できてから終わる」に変えさせました。
それだけだと時間がかかりすぎますので「3秒で解き方が思い浮かばない問題はチェックを付けて次に進む」という3秒ルールとセットにしました。
その結果、勉強中に「分からない」と悩む時間がなくなり苦じゃなくなったし、時間がかからなくなったと言います。
そして、次の試験以降、卒業まで欠点ゼロで卒業することができたそうです(さらに、評定が高くなり、希望する私立大学に推薦で合格までできたそうです!)
「解くことに時間をかけるな」という逆説的な指示
実は、この高校生に示した「問題を解くことに時間をかけたらダメ」という指導も、ことのば式の成績アップの秘伝のレシピの1つです。
仕上げのための模擬問題や応用問題に至る前段階のドリル練習のフェーズでやっているのは、「自分がスムーズに解けない問題の選別」なのです。
問題を読んで3秒以内に解き始められなければ、未定着として✓を付けてパスする(記憶系なら1秒)。
喉まで出かかって出てこない時間を長く味わうほど、次も同じところで詰まるようになります。
長考が許されるのは、最後の意識的出力のフェーズだけなのです。
テスト前3週間のプラン(道のり)も、この原則に基づいて設計されています。
間違えた問題には、✓を付けて付箋を貼り付けた上で、必ず間隔をあけて解き直す。
具体的には、答え合わせで正解を確認したら、他の問題を解いた後に解き直します。そこからさらに、1時間ほど空けて(あるいは翌日に)もう一度解き直し、3日以上あけてもう一度解き直す。
ここでスムーズに解けたら付箋をはがす。
実は同じ「3回の想起成功(正解)」でも、1週間後の保持率は間隔をあけた場合が68%、同一セッション内で詰めて解いた場合が26%だったという報告があります(Rawson & Dunlosky, 2022)。
回数ではなく、間隔が効いているわけです。
指導者の役割——「教える人」から「基準と地図を手渡す人」へ
90分×3回でできることなど、たかが知れています。
しかし完了基準と3週間のプランを渡せば、子どもたちは指導者のいない残りの時間を、自分で設計して動けるようになるものです。
たった3回の指導で成績が劇的に伸びたのは、教え方がよかったからではありません。それまで気分に任せていた「終わっていい」の具体的な判定基準を、子ども自身が手に入れたからです。
指導者が子どもに渡すべきは、「技」ではなく「基準と設計」です。
技は「指導者ありき」ですが、「基準」は子どもの中に残り、資産になります。これが「自律学習」を作るわけです。
次のテストまでの逆算計画を、子どもに書かせましょう。
そこに「ワークを3周」と書くのか、「標準問題をスムーズに解ける状態まで」と到達基準を書くのか。指導設計の分かれ目はそこにかかっていると言っても過言ではありません。


