今日のテーマ
「大事なところに下線」に学習効果はない
アンダーラインはなぜ人気なの?
習慣化された「安心感」と「やっている感」
中学生の理科・社会の学習の定番といえば「教科書の大事なところに、色つきの線を引く」ことと言っても過言ではないでしょう。
先生も授業中に「はい、ここは線を引いておけ」みたいな指示を出すくらいです。(最近の先生は、手を抜いて虫食いプリントを配って穴埋めさせるだけで教科書を読ませないというパターンも多いみたいですが…)
アンダーラインやマーカー(蛍光ペン)によるハイライト作業は、学習者に「重要な箇所を押さえた」という安心感を与えます。視覚的にも分かりやすいですし、学習した「痕跡」が残るため、達成感が得やすいというところでしょうか。
しかし、その“やっている感”が、実際の理解や記憶の効果とは無関係だってことは理解しておかなければなりません。
何度も書く、何度も教科書を読む、ノートに整理するなども「がんばって勉強した!」という充実感を与える一方、学習効果があまりない方法ですね。
教科書・問題集との相性のよさ
生徒さんが勉強の際に「どこを覚えたらいいか」ということを重視し、そこに印を入れるのは、まぁ学校のテストや塾でおこなわれる勉強が原因だろうことは想像に難くありません。
教科書や問題集が「重要語句を強調する」ように設計されています。理科や社会は、最初から重要語句が太字になっていますしね。
そして、先生たちもテストを作る際に、その重要語句をそのまま答えさせるような問題を作りがちです。
そういう学校教育のスタイルに合わせれば、「出るところだけ覚える」スタイルに直結するアンダーラインやマーカーが、生徒達に好まれるのも無理はありません。
科学的研究から見えるアンダーラインの限界
アンダーラインで理解と情報が壊れる?
Dunlosky et al.(2013)は、アンダーラインは学生らがよく使う学習法の1つであるとした上で、いくつかある学習法の中で「学習効果が低い(あまりない)」と分類しています。
とくに「文脈全体の把握」や「抽象的概念の理解」を妨げる要因になり得るとしています。線を引いた部分の情報にだけ注意が集中し、それ以外の情報の記憶・理解が低下するというわけです。
“Although highlighting or underlining is widely used by students, the benefit appears limited. Learners often fail to focus on the most important material or integrate the highlighted material with the rest of the content.”
───
寺田のテキトー訳
「マーカーの使用や下線は学生らに広く使われてはいるが、その効果は限定的である。学習者はしばしば大事なところに線を引かないし、線を引いていないところとの関係に気を遣わないものだ。」
(Dunlosky et al., 2013)
線を引くこと自体が勉強の邪魔になる?
Ponce et al.(2022)の研究によれば、アンダーラインは一種の選択行為であり、「どこが大事か?」を判断する必要があるため、その作業自体が、本文の理解を邪魔しているとしています。
とくに小中学生では、発達的にその判断が適切に行えないことも多く、結果として“間違った箇所に線を引く”ことも、効果を損なう原因になっているとされています。
逆に、どこにどう線を引くかといったトレーニングを2時間程度でも指導を受けることで、学習効果の高い線引きができるようになることも指摘しています。(まぁ、先生たちもそんな指導しませんわな…)
指導者による強調は短期的には効果あり
指導者があらかじめ「重要箇所」に線を引いておくと、一時的には理解と記憶が向上する傾向があります。(上記のとおり、学生さん自らが線を引くと理解が悪くなります。)
ただし、この効果も数日~1週間程度で薄れるため、長期的な学習効果を狙うには不十分とされています(Dunlosky et al., 2013)。
ただし、テストの前に「普通のテキスト」と「線が引かれたテキスト」で勉強した場合に、線が引かれたテキストで勉強した方がポイントが絞れて点数アップとなるかといわれると「全然そんなことはなかった」とされており、トータルでみると、こういう「どこが大事か」という単純暗記を目指す学習は止めた方がいいという結論になりそうです。
本当に効果的な理解と記憶の定着とは
教科書全体を“まんべんなく”読むという基本
特定の語句や用語を覚えることは「テスト対策」としては有効です。特に専門的な語彙は覚えていなければ始まらない、ということも間違いない事実です。
ですが、それは「全体を理解した上での部分的な強調」でなければなりません。「理解」の基盤がなければ、自分が覚えたとおりに問われない限り正解できません(応用が効きません)し、今どきの「説明しなさい」という問題パターンにも対応できません。
「出力練習」こそが深い学びを生む
まずは、ハイライトした言葉だけを単純暗記したり、提起テスト対策問題集だけを反復したりといった表面的な学習をやめにしましょう。
まずは教科書を丁寧に読むこと。書かれている内容を、自分の言葉で説明できるだけの理解を作ることが目標です。
ちなみに「線を引くことは効果がない」としている学術論文でも「線を引いた箇所をノートにまとめる」ような作業をセットにすることで効果的な学習に変えることができるとしています。
覚えた言葉を思い出しながら、同時に全体の構成などを考えながら独自のノートを作ることは、理科・社会の学習では1つの重要なテスト勉強です。
点数が伸びないときに見直すべき視点
お子さんが「しっかり勉強しているのに成果が出ない」と悩んでいたら、ぜひ、重要語句の単純暗記や問題集の単純な反復で終わっていないか確認してみてください。
教科書を丁寧に何度も読む。それを自分の言葉で語れるようにする。さらに重要語句を中心に自分の力でノートに整理する。── ここまで取り組ませてみましょう。テストの得点、大幅アップは間違いありませんよ。(^^)


