なぜ「読解問題をやらせて解説するだけ」では、読解力が育たないのか?

日本の国語の授業って、それなりに文法や語彙の扱いが表層的なレベルにとどまっていて、教科書に掲載されている文章を読むときは、そういう文法的な、あるいは分析的な読み方が大事にされていない印象があります。

実際、国語の授業の多くは「心情読解」に時間を費やしていると揶揄されることがあり、多くの場合、そこでは「文章を読めれば、即理解できているとみなす」という前提が置かれています。
授業を見ると、多くの場合が同じパターンになっています。

【教科書を読ませる】⇒【先生が問いかける】⇒【生徒が答える】⇒【先生が模範解答を紹介しつつ解説する】

このやり方で「読解力」が身につくのかどうか疑問が残ります。

多くの授業で前提とされている「文章をなんとなく読んで、なんとなく分かる」という状態。
分かっている子は実際に読めて、理解できているし、先生の説明も理解できています。先生から「分かりましたか?」と問われたら「はーい」と元気に答えます。しかし、声を出せずに取り残されている子どもたちが大勢いる可能性もあるわけです。
こういう、読んだつもり・分かったつもりを積み重ねていても、思考力や読解力の向上は望めません。
読解力とは、「情報を精緻に処理し、テキストの意図・構造・前提を読み解く力」です。その力を伸ばすには、単なる問題演習では不十分なのです。

今日はそんなお話をお届けします。

目次

「厳密に読む」の課題

まず、日本語という言語の特徴でしょうか。
特に読解の指導をしなくても、ある程度、普通に国語の授業とか読書とかを通じて、子どもたちは勝手に本を読めるようになっているように思えてしまうんですよね。読んでいる本人も、細かなことが分かっているかどうかは別として、それなりに分かっている感覚・手応えを持っていますこれが落とし穴なんですが。

英語は、そもそも綴りが難しいので「文字(スペリング)と発音の関係」をしっかり学ばないと、読めるようになりません。いわゆるフォニックスです。(日本のひらがなって、すごい!)
そして、代名詞(日本語だと指示語)の存在がやっかいです。たとえば…

Tom lent his car to Jerry because he had missed the last train.

なんて文があったとき、文中の「he」が何を指しているのか、前の文脈が頭に残っていないと瞬時には分からない場合があるんですね。(ちなみに、このheはTomとJerryのどちらを指しているか即答できますか?)
英語の場合、こういう難しさがあるために、そして非英語ネイティブの移民の問題もあって、言語的能力をトレーニングする研究と実践がすごく充実しています。

日本の読解指導の現状は…?

日本はそのあたりの危機意識がないためでしょうか。あまり「厳密に文・文章を読み解いていく」というレッスンがありません。

例えば、指示語や接続詞が何を指すのか、何と何を接続するのかということも、「なんとなくここかな?」というレベルで考えさせてしまっている現状があります。合理的な解き方(考え方)の指導がなければ、何度やっても感覚的なやり方を抜け出せず、難しい問題に遭遇すると解く(考える)手がかりすら持てないことになります。

感覚的に分かった気分になることと、本当に正しく理解できることの間には、無限の隔たりがあるわけです。意図的に、厳密に正しく読むトレーニングをしないで、ひたすら読む練習(読解問題や読書)をさせたとしても、その子の持っている言語能力の限界で読解力が頭打ちになることは想像に難くありません。

「読解問題+解説」では限界がある理由

教育現場での“自力で読めない子が「わかった気になる」”構造

学校や塾でよく見られる

読解問題/文章問題を解かせて、答え合わせをし、模範解答の導き方について解説する

昔ながらの、このスタイルは、問題の処理手順を確認する作業にはなっても、読解そのものの技能を育てる構造にはなっていません。

たとえば、模範解答を板書し、「ここはこう考えるんだよ」と説明されると、生徒たちはその解答を“後追い”で理解し、分かったつもりになります。しかし、自力で読めない状態を放置したまま、他人の解釈を“なぞる”だけでは、読解スキルそのものが強化されることはありません。

塾でも起こる同じパターンの学習

この構造は、問題集学習にも共通します。一問一答型の短答問題や、選択肢から選ぶ形式の問題は、パターン練習にはなっても、「なぜその選択が正しいのか」「どのように本文から導いたのか」を自ら言語化できなければ、応用力にはつながりません。
間違えたから正解を確認して、解き方をなぞって終わり、考え方を解説されて分かった気分で終わり、ではいつまで経っても、今の自分の読解力のレベルを超えていくことができません

これって学習塾もまったく同じかも知れませんね…。
学校であれ学習塾であれ、先生が読み方、考え方を解説して終わりというのは、よくあるパターンではないでしょうか。

“できる子の解釈を聞くだけ”で終わるグループワーク

多くの場合、先生が全体に問題を投げかけて、《個別の演習》があり、《クラス全体の答え合わせと解説》だけで終わっている場合がほとんどです。学校の授業では《グループワーク》の時間が採用されることもありますが、全員での意見交換というよりは、“できる友達の意見を一方的に聞いて終わる”のが一般的パターンです。

だって、先生も「分からない文章の読み解き方・攻略法、読書ストラテジー」を体系的に学んでいませんし、生徒たちにできるはずがありません。

読解力アップを本気で目指すなら?

「分かるようになるための読み方」を教える

読解力を本質的に育てるには、「読み方の技術(=読解ストラテジー)」を明示的に教える必要があります。
研究によれば、読解力の高い生徒は、読みながら絶えず「理解できているか?」をモニタリングしており、分からないときには適切な手段(戻り読み・再要約・図解など)を活用しています(Pressley & Afflerbach, 1995)。

Pressley, M., & Afflerbach, P. (1995). Verbal protocols of reading: The nature of constructively responsive reading. Lawrence Erlbaum Associates.

このような「読解ストラテジー」は、「出来る子は使っている」というだけでなく、それを使いこなせるように指導することで、読解力を向上させることも可能だとされています(Duke & Pearson, 2002)

Duke, N. K., & Pearson, P. D. (2002). Effective Practices for Developing Reading Comprehension. In A. E. Farstrup & S. J. Samuels (Eds.), What research has to say about reading instruction (3rd ed., pp. 205–242). International Reading Association.

読解ストラテジーを3段階で考える

読解ストラテジーは、以下の3つの段階に分けて考えることが可能です。

読む前の戦略(Pre-reading)

  • 目的設定:「この文章を読んで、何を知りたいのか?」
  • 予測と下読み:タイトルや見出しから内容を予測する
  • 既有知識の確認:知っていること・わからないことを意識化する

読んでいる最中の戦略(During reading)

  • モニタリング:「今読んだ内容は理解できているか?」
  • 要約とメモ:「段落ごとに何が言われているかをまとめる」
  • 意味の推測:「知らない語句や表現を前後の文脈から推測する」

読んだ後の戦略(Post-reading)

  • 要約の再構成:全体をどう理解したかを整理して言語化
  • 他者との共有:意見交換で自分の解釈の妥当性を検証する
  • メタ認知的振り返り:「どのストラテジーが効果的だったか?」

このようなプロセスを意識的に取り入れることで、自分の読みを客観的にとらえる意識が身につきますし、自分がどこでつまずいたのか、間違ったのかといったことも理解しやすくなります。また、よくできている友達がどのような解き方・考え方をしているかも知ることができます。

読解力は良質のトレーニングで伸びる!

読解力は、一朝一夕で身につくものではありません。重要なのは、「わかるようになる体験」を何度も繰り返すことです。その際、単に問題演習を反復するのではなく、文章の構造や論理の流れを「どうやって読み取ったのか」を常に意識しながら読む必要があります。

たとえば以下のようなトレーニングが有効です。

  • 段落ごとに要旨を10字以内でまとめていく
  • 指示語(それ・この・あの)が何を指し示しているか線を引く
  • 筆者の主張と根拠を見分けて線引きする
  • 接続詞や接続語が、何と何を結びつけているのか線を引く

これらの活動は、「読む行為」を意識化させ、読解スキルの改善に直結します。

読解ストラテジー指導の実践例(オランダ)

オランダでは、PISAの読解力のスコアが低下したことを受けて、読解指導の大幅な改革が進んでいます。特に注目されるのは、戦略的読書のトレーニング(strategy-based reading instruction)を国語カリキュラムに組み込む取り組みです。

Veenman(2017)の研究によれば、明示的なストラテジー指導と、メタ認知的振り返り(例:どの読み方がよかったか、なぜ理解できなかったのか)を組み合わせた指導を行ったところ、読解テストの成績が有意に向上したと報告されています。

Veenman, M. V. J. (2017). Learning to Self-Monitor and Self-Regulate. In H. Fives & D. Gill (Eds.), International Handbook of Research on Teachers’ Beliefs (pp. 233–247). Routledge.

オランダの取り組みは、教育現場の構造改革を伴うものですが、日本でも導入可能な部分はあるはずです。
特に小中学校段階での「読む技術(読解ストラテジー)」への系統的な指導の導入は急務です。

指導者の「読解」観をアップデートしよう

日本の先生たちも、もっと研究者の知見を取り入れ、科学的で再現性のある読解指導を導入して欲しいものです。
そのために、まず読解指導に携わる教師自身が「読むとはどういうことか?」を再考する必要がありそうです。

教員養成課程では、文学的読解や鑑賞の指導には重きが置かれるものの、情報読解や論理的読解の方法については体系的に学ぶ機会が少ないのが現状のようです。
しかし、現代社会で求められる読解力は、まさにこの情報処理型の読み方です。

読解指導の目的は、「答えにたどり着かせること」ではなく、「どのように読み、どのように考え、どうたどり着いたかのプロセスを共有すること」にあります。そこにこそ、読解力を超えて、思考力・判断力・表現力が育まれる余地があります。

読解力は、国語に限らず、あらゆる学びの基礎です。当然、読解力を育てる教育は、すべての学習の質を底上げする重要な鍵を握っています。

「読み方」を教え、「読む過程」を共有する授業づくりを、ぜひとも学校の先生には取り組んでいただきたいものです。
そのことが、子どもたちが自らの限界を突破していけるような“読みの技術”を育てていくことにつながるはずですから。

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