今日(2020.07.07)の日経新聞朝刊に、思わずため息が出るような記事が掲載されていました。
「教育改革──危機が促す」というテーマのものですが、
揺らぐ「学びの保証」
デジタル対応20年遅れ
(前略)
上智大の相沢真一准教授(教育社会学)によると「日本の学校のデジタル対応は世界から20年近く遅れている」。
(後略)
実際、いわゆる先進諸国ではコロナ休校期間中もオンラインで授業がなされていたのに対して、日本の多くの学校では明らかにその場しのぎで作ったと思われる、雑な宿題プリントが配られて終わりました。ややましなところでも、先生が授業を録画して映像教材として配信するというレベル。
私のところにも、専門学校の先生や個人のセミナー講師、あるいは公立学校の先生方等々から相談がありましたが、その中ではっきりしたことがありました(ある意味で予想通りでしたが)。
それは、日本の教育界の意識は、授業のオンライン化を「リアルに登校できない場合の、やむを得ない代替措置」としかとらえていないということ。
そして、コロナ自粛がほどなく終わるのであれば、できればやりたくないという意志が強く見えること(現場の先生ではなく管理職や古参教員に、ですね)。
ですから、コロナが一段落したら、オンライン化のことは完全に忘れてしまったかの状況です。
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「授業のオンライン化」に対する世界的な認識
アメリカやオーストラリアなど国土が広い国では、遠隔授業のためのオンラインシステムは非常に早い段階から進められてきました。
これはある意味で、「通えないから、その代替措置」です。
しかし、リアルな授業と同じレベルでオンラインによる自律的な学習を進めるための研究が熱心に進められており、オンラインで効果的な教育をする方法も、ある程度確立しており、その研究成果を活かして、今では通常の学校でも、オンライン授業がリアルの授業を補完する重要な役割を担ったものとして採用されつつあるのです。
その1つの形(完成形)が「ブレンド型授業」(Blended Learning)です。
先生の授業は、生徒の学びをサポート・ナビゲートする一部に過ぎず、あくまで主役は生徒。
オンライン授業によって十分な基礎を作り、仲間同士でディスカッションしながら学びを深め、さらに先生のナビゲートによるディスカッションやレクチャーが付け加わります。
そこには「先生のリアルな対面授業は不完全であり、本当の意味で、生徒の学習を成就させることはできない」という認識があります。
先生がどれだけ丁寧に、分かりやすく工夫して授業をしたとしても、全員が同じ理解度でついてくることはありません。
先生は生徒の理解度を知るために、挙手をさせて理解を確認するなど工夫はしますが、理解が追いついていない生徒は、いつだって静かにやり過ごされます。
これが映像のオンデマンド教材であれば、生徒は分かるまで何度も視聴できますし、自分のペースで学習を進められますので、消化不良がありません。
ただ、「分かったつもり」はありえますし、「やっぱり分からない」も残ります。
そのために、オンラインの小テストが用意されますし、友だちとのグループ学習やディスカッションがあります。そしてもちろん先生主導の授業も用意されているのです。
つまり、ブレンド型授業というのは、単にICTメディアを活用した授業というツールの活用という次元のものではなく、生徒の理解を最大化するための多チャンネル展開を工夫するという授業への哲学という次元でとらえるべきものなのです。
単なるオンライン授業はNG
コロナの自粛期間中、zoomなどを活用した「授業のオンライン化」の実践がおこなわれたようですが、あまりいい声は聞こえてきません。
「やっぱりリアルがいいよね」というのが、大方の感想だったのではないでしょうか?
- 集中力が保たない(疲れる)。
- 先生の話を聞き漏らすと、隣の子に「ねぇねぇ、次、何するの?」などと聞くことができない。空気で察することもできない。
- 周囲の友だちを観察することで得られるヒントがない。(先生が不安げな生徒を察知して救うことも難しい。)
先生にとっても、生徒にとっても、クラスの空気・雰囲気や、ちょっとした雑談めいたヒントなどが得られないため、かなりシビアでカオスな結果が生まれます。この現象は、小学校の低学年ほど顕著になりますが、社会人でも同じことがおこります。
読解力・聴解力が高い生徒は問題ないのですが、そうでない生徒は完全に落ちこぼれるしかありません。
本来、オンライン化するということは、
- 反復学習(映像の繰り返し学習)が容易である。
- 簡単な小テストを手軽に作れて、しかも自動採点まででき、生徒の習熟度が手に取るように分かる。
- 斉の指導(同一内容指導)と、個別対応とを同時進行でき、柔軟な授業運営が可能になる。
そういうメリットを享受できるはずなのですが、単純に「よし、授業を撮影して配信しよう」とか「zoomでリアルタイム配信しよう」などと安易な発想に走るために、「やっぱりリアルにはかなわないよね」という結論になりますし、コロナが落ち着けば、そりゃ通常の授業に戻るしかありません。
授業をオンライン化するということは、「生徒の主体的な学習を、どう支援するか」という、教育の原点に立ち戻って考えるべきことなんですね。
そして、その時には先生が授業の脇役になることも辞さないというスタンスがあって初めて成立するものなのです。
21世紀に突入してすら、未だに「教育を受ける権利(right to recieve education)」という教育勅語的発想でしか教育を考えられない日本の学校現場で、生徒の主体的な学びを中心に据え、本当の意味で「授業をオンライン化する」ことは可能なのか? これからの推移を、一保護者としても、教育に携わる身としても注目していきたいと思います。
余談ですが・・・
先生が脇役になると書きましたが、現実問題として、
- トークがうまい、スター性がある講師の一人勝ち。スタディサプリの講師陣のトークに勝てる講師がいるのか謎。
- 大学で言えば、冗談ではなく、トークがうまい先生の授業をWeb配信を聴きたい人が聞いて単位が取れればいいという話になる。
ということを考えて、「では、うちの学校、私の授業をどうするか?」と発想しなければなりませんね!
以下、おまけ。
寺田式「ブレンド型授業(講座)」の作り方講座
私が、社会人の皆さんを対象とした講座・セミナーを生業としてご活躍の皆様のために制作した「ブレンド型授業の作り方」の映像教材です。
この教材自体がブレンド型になっていないという、自己矛盾を抱えておりますが、そこは気づかなかったことに・・・。
1.概論(導入)
動画の中で語っているメモ用ノートは、こちらのリンクからダウンロードしてください。
⇒【講座用ノート】
2.概論(その2)
- なぜ成果志向が求められるのか?
- 教育工学・教育心理学的な視座から何が見えるか?
この講座パワーポイントPDF
導入編の2つの動画に対応するパワーポイントのPDFです。
3.指導法設計の4つのポイント
4つのポイントのうち1-3のPDF
1.Instructional Design
総論的に「学習指導をどう設計するか」というお話です。4つの観点の1つ目ではありますが、全体に関わる話ですので、ぜひ自分の講座・教育活動全体を思い浮かべながら学んでください。
なお、うっかり説明し忘れていたのですが、「Blended Learning」というのは、リアルな教室での一斉授業、PCやネットワーク環境を活かした個別学習、ディスカッションスペースを使ったグループワークなど、環境とメディアを様々に組み合わせることで効果を上げようとする教育手法です。
1-1.メディア・教材の設計
1-2.学習環境の設計
グループワークやOB/OGの関与、指導者の直接的な関与、あるいは教室環境の設計などをおこなうことで、学習者のモチベーションを上げ、正しい努力を続けていくことが可能になります。
正しい努力をコツコツ続けていくことこそ、学習目標達成最大の鍵です!
1-3.到達目標の設計
到達目標を明確な形で設計すると、その目標達成のために必要な要素、それを学ぶプロセス、指導者側の指導のステップなどが見えてくるため、お互いに、「何を学習/指導すべきか」が明らかになるため、非常に努力しやすくなります。
2.教材設計 & 3.自己調整のデザイン
4.効果的な指導法・学習法
4.実際の講座設計例(コピー講座&速読講座)
速読講座のサンプルページはこちらです。
なお、速読オンライン講座は、Wordpressを使って構築しており、Simple WordPress Membershipというプラグインで会員管理をしています。
参考文献など
編集が追いついておりませんので、「こういうことを知りたいんだけど、資料とか論文ってない?」みたいなご質問はTwitterでメンションするか、メールでお問い合わせください。
Coursera:Blended Learning
ブレンド型講座を学ぶのには最適な教材です。しかも、この講座そのものがOnline講座の形式で作られているので、オンラインでの効果的な教材設計が体感できます。
[blogcard url=”https://ja.coursera.org/learn/blending-learning-personalization”]