「公立学校でタブレット倍増」はGood Newsか?

2015年10月12日付け日経新聞で「公立小中高、タブレット倍増」との記事が掲載されました。
ざっとポイントだけをピックアップしてみます…

  • 文科省による全国の公立小中高校などを対象とした調査
  • 2015年3月時点でのタブレット整備台数は15万6356台で前年の2.15倍
  • 電子黒板も9万573台で前年比8045台増
  • その時点でタブレットを含むPCは6.4人に1台の割合

ICT教育の推進をうたう教育界としては「いい方向」とされているわけですが、これが本当に教育にとって「いいこと」かどうか、かなり疑問も残ります。

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PC活用、タブレット活用にはどんなメリットがあるのか?

今、塾を中心にタブレットやPCを活用したICT教育がしきりに宣伝されています。
公教育の方でも、今年5月には文科省が「デジタル教科書」の導入に関する専門家による検討会議を開いています。
おそらく、大きな予算も絡みますので「導入ありき」で今後も進んでいくことになるでしょう。
 
そこでうたわれる「デジタル化のメリット」は、以下のようなものです。

お上が主張する「デジタル化のメリット」とは?

  • 英語や音楽で音声を使った体験型学習ができる。
  • 算数・数学の図形を立体的に学ぶことができる。
  • 動画などの魅力的な教材を活用することで生徒の理解を深めることができる。
  • 無線LANがあれば、電子黒板と接続することで、教師と生徒あるいは生徒同士のやりとりが可能になる。
    (ソースはすべて日経新聞2015.05.15記事)

塾や各種教室で進められているデジタル教材のメリット

上で述べられているメリットは「お上が声高に主張している」というもの。
それに対して、こちらは実際に「そういうメリットがあって導入が進んでいる」というものです。

  • 生徒の習熟度、取り組み時の解答の正誤、解くのに要した時間などを基に、最適な問題を抽出することができる。
  • レベルの調整をしながらの反復学習(ドリル、単語カード的学習)が容易にできる。
  • 子どもの学習記録と成績の比較検証による的確なアドバイスが可能になる。
  • 自律型の教材によって個別対応が可能になり、その子にあった進度で学ぶことができる。
  • 家庭でもPCなどを使って学習またはその記録をおこなうことで、宿題のマネジメントが可能になる。
  • 全国の子ども達のデータを集積することで(ビッグデータ)、間違いやすい問題の傾向を的確に把握し教育プログラム(メソッド、プロセス)の最適化、あるいは個別指導時の最適な提案が可能になる。
  • 講師の質が指導の問題から除外され、生徒のモチベーション管理やカリキュラム管理に注力できる。
  • 電子教科書の文字数や行間を変更可能であれば、その生徒の力に応じて調整し、もっとも読みやすいフォーマットに変更することで学習効果を高めることができる。

なんだかもう、ICT万歳!という感じですね。(笑)
 
ちなみに、福岡県立高校も必死で「授業にパソコン(ICT)を導入せよ!」と先生達に通達して、無理矢理プロジェクターを使わせるなど、現場を混乱させているようです。(苦笑)

ICTは本当に、教育に福音をもたらすか?

確かに現在の学校教育は、昔から伝統的におこなわれている方法で授業がおこなわれがちです。
 
科学的なデータに基づいた教育改革ツールが入ってくる、これまでの授業(のやり方)ではカバーしきれなかった部分を補える、という部分ではメリットがありそうです。
 
しかし、学校教育ということを考えたとき、様々な視点から検討しなければなりません。

  • 公立学校という生態系(教育環境・教育システム)の中で、タブレットなどICT活用をどう位置づけるか。
  • どういうジャンル・カテゴリで、あるいは教育プロセス(入力、演算・処理、出力、熟成・内面化etc)のどの部分でどう活用するのか。
  • 短期の成果が本当に長期の成果につながっているのか。小学校から大学までの大きな流れの中で不整合は起こらないか。

そして同時に、以下のようなICTのメディアが持つ特性をどう、システム全体の中でカバーしていくのかも考えなければなりません。

ICTメディアの持つ宿命的なデメリット

まだまだICTの持つメリットをどう活かし、これらのデメリットをどう克服するのか、教育全体の中でどう活かしていくのかという発想も議論も、教育界にはありません。
 
ミクロレベルの視点の効果に目を奪われることなく、教室という空間全体、一人一人の生徒の学習環境、家庭での取り組みといった空間的な意味での広い視野、そして子ども達の長い成長のプロセスという時間的な意味での広い視野でもって、ICTとどうつきあっていくかを考えたいものです。

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この記事を書いた人

フォーカス・リーディング主宰者

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