日経【小学生「英語授業面白い」72%】は誰への皮肉か?

一昨日の日経新聞朝刊(2015.11.30)にこんな記事が掲載されました。

◆小学生「英語授業面白い」72%
ベネッセ教育総合研究所(東京)が3月、小学5、6年生を対象におこなった調査によると、児童の72%が英語の授業や活動を「他教科に比べて面白い」と感じていた。

一見すると、別になんてことはない記事です。
 
親からすると「小学生から英語を?」という不安もあるわけですが、「ちょっと安心かしら?」と思わされてしまいます。
 
さらにこの記事では〆にこんな記述が。

同社は「今後は自分の考えや気持ちを表現する活動を充実させることが大事」としている。

その前段階で英語によるコミュニケーションのデータと子ども達の意見が紹介されています。
 
実際、小学校の英語はコミュニケーションを重視しており、過去の日経新聞(2015.07.04)の記述にはこうあります。

外国語活動は音楽やゲームを通じて英語の音声や表現に慣れ親しむのが中心で、読み書きを指導する小学校は少ない。

ま、楽しめているなら成功じゃない?
中学校に入って英語に対して苦手意識なく授業に取り組めたら、英語力も上がりそう!

 
一瞬、そんな儚い幻想を抱いてしまうかも知れません。
 
 
では、現実にはどうなんだろう?
 
72%の「英語が面白い」と感じていた子ども達は「英語が得意」になったのか?
 
 
とても残念なことに中学、高校と進むにつれて「英語が苦手」に変わっていくのです。(予想通り?)
 
日経新聞の記事にはこうあります。

小学校5〜6年生の70.9%は英語が「好き」または「どちらかといえば好き」と答えたが、中学1年で計61.6%に下がり、中学2年では計50.3%にまで落ち込んだ。
── 日経新聞 2015.07.04 朝刊より

中学1年生の8割が小学5〜6年生の時に受けた外国語活動の授業で「もっと英語の読み書きをしたかった」と考えていることが、3日(註:2015.07)、文部科学省の調査で分かった。
── 同上

文部科学省が2014年7〜9月、無作為に選んだ全国の国公立約480校の高校3年生約7万人を対象に行った英語力調査で、英語の学習が好きかとの質問い「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」と答えた生徒が過半数の58.3%に上った。
── 日経新聞 2015.04.20 朝刊より

つまり、小学校の英語授業は学問的な要素が少なく、純粋に楽しいものだったのに、中学に入って読み書きという学問的な領域に踏み込んだ瞬間に「なんだったの、あれは?」という念に変わってしまうというわけです。
 
それが「こんなんだったら、小学校の時からちゃんと読み書きを教えてくれればよかったのに!」という声として出てきている、と。
 
ちなみに2020年からは小学校の英語も、正式な「教科」に変わります。小5から「週2コマ」の授業になると予定されており、今のような「楽しむ」だけの授業というわけにはいかなくなることが予想できます。
 
その時に、それでも「英語が楽しい」を維持できて、かつ中学校に入ってストレスを感じずに済む、読み書きの学問的な授業ができるのか疑問が残ります。
 
ちなみに、これに関連してさらに別のデータがございまして。

◆小学校教員「英語が苦手」67%
文部科学省が2月、全国の小学校の教員3203人に実施した調査結果によると、全体の67%が「英語が苦手である」と答えた。「自信を持って指導している」と答えた教員は34%にとどまった。
── 日経新聞 2015.08.03 朝刊より

しかも、同記事によると「学校外の外国語活動に関する研修に参加していない」という先生が63%だそうで。(苦笑)
 
 
ということは、ですよ。
 
今回の「英語が楽しい」という生徒が多いよ、という記事。
 
これは、英語指導に自信がない小学校の先生達が「研修とかめんどくさいから受けないけど、とりあえず工夫して、英語を使ってる感を演出しつつ生徒を遊ばせよう!」と奮闘している努力の結果と言えるのかも知れません。
 
それが本当に文部科学省が意図した「小学校からの英語教育」に適うものなのかどうか、です。
今回の記事だけを見たら「おー、いいじゃん」となりそうですが、広い視野で俯瞰して、「日本の英語教育」という文脈に沿って考えれば「楽しませることだけは成功しているね」という皮肉にも見えてきます。
 
あるいは中学、高校の先生達に対して「小学校で英語が楽しいと思っている子の意欲をそぐ授業は考え直しましょうね」と投げかけているのでしょうか。
 
というわけで、私も小学生対象の英語教室を来春から再開しようと思っております。
読み書き中心のハードなやつをね。
楽しくないけど「できる楽しさ」を、しっかりと教えたいな、と。

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