人事担当者「内定者よ、本を読め」を深読みしてみたら

日経新聞の「さあ準備 会社デビュー」という企画記事(2015.12.08)に、就職人気ランキングで上位入りしている「全日本空輸」「みずほFG」「伊藤忠商事」3社の人事部長からのメッセージが紹介されています。
 
テーマは「内定者に、入社までにしておいてほしいこと」。
 
3者それぞれに語っていらっしゃいますが、共通して語っているのが「本を読もう」という話。
 
まずは3人の言葉を切り取ってみると…(強調はブログ主による)

■伊藤忠商事
若い人は交流サイト(SNS)など迅速なコミュニケーションは得意だが、点と点の関係だけではうまくいかない。人間に対する洞察力や深い表現力を磨くため、入社までに純文学の大著を読んで欲しい。

■みずほFG
…視野を広げるために、何か新しいことにチャレンジしてほしい。映画を100本見るとか、海外10カ国を旅行するとか、歴史書を100冊読むとか、何でもいい。重要なのは自分自身で目標を定め、必ず最後までやり切ることだ。
(中略)人としての魅力を磨いて欲しい。

■全日本空輸
これから社会人となる若者には本を読む習慣を身につけてほしいと思っている。(中略)ビジネスパーソンが読んでいることが多い司馬遼太郎の小説や、グループ会社が出版しているホスピタリティーに関する書籍などを推薦している。

読書を勧めている立場からすると、まさに「我が意を得たり!」です。
 
みなさん、人事担当者も勧めているんですよ。本を読まなければ!

「内定者よ本を読め」のメッセージを深読みしてみると…

みなさん、異口同音に「非実用」の本を薦めています。
これは大事。
 
私も、大学での授業や社会人向けの読書会でも、日常の「すぐに役に立たない本を読もう」「目的なく読むことが大事」と語っています。

[blogcard url=”https://www.kotonoba.jp/column/not-immediate-effect/”]

ただ、それを言葉通りに理解して終わってしまうのは、ちょっともったいない。 
せっかくなので、日本における「空気を読め」的テレパシーの技術を駆使して、さらにその奥にあるメッセージを読み取ってみましょう。

「本を読め」という言葉が意味するもの

人事担当者があえて「読め」というくらいです。しかも、自己啓発とかビジネスノウハウとかではなく、名著・大著を読め、と。
 
組織としての「本を読んでいない人」に対する問題意識はかなり大きいのかも知れませんね。
 
学生の皆さん、心して大学時代から読んでおきましょう。
武器として語れるくらいに読んでおけば、就職でも有利になるのでは? もちろん「どういう読み方をしてきたか」が一番大事ですけど。

「純文学」「歴史書」「司馬遼太郎の小説」が意味するもの

明確な何かを目的として読むのではなく、ただ、作品の世界とか主人公の生き様を(追)体験するためだけの読書こそ、学生時代には重要です。
 
ある意味で「何者にでもなりうる私」のベースを作ってくれるものですし、自分の「あり方」そのものに影響を与える作業だから。
 
ただ、なんです。
 
これから社会に出て行こうという若者ですよ。
もっと明確な指向性というか方向性を持った読書をしていてもいいはずなんです。
 
それが、入社前に、人柄の良さ、人間的魅力だけ、そのかけらでもいいから煎じて飲んでこい、と。
それ以上のビジネススキルは会社で何とかしてやるから、と。
 
まさに、「一生面倒見て、オレ色に染め上げてやるぜ」的昭和の香り。
 
ちなみに、全日本空輸の方の「司馬遼太郎」を勧める理由が「多くの人が読んでいるから」という、なんとも脱力系です。組織の一員として「社会で(レベルの高い人たちと)渡り合える教養」というとらえ方なのでしょうか。謎です。

「歴史書100冊」が意味するもの

卒業まで4ヶ月を切ったこの時期に「歴史書100冊」とか「映画を100本」というのは、比喩にしても絶望的な気分になる数字です。
しかも「自分自身で目標を定め、必ず最後までやり切ることだ」とまで念を押しています。
 
大学の最後3ヶ月、遊び呆けてる暇なんてないぞ、我が社に入って貢献できることだけを考えて没頭して来い、と。
 
求められているのは「体育会系チックながむしゃらさ」でしょうか。
 
ちなみに、伊藤忠の内定者のTOEICの平均は700点を超えており、「700に満たない学生は必死で勉強して欲しい」とのこと。全日本空輸の場合は、総合職の内定者はeラーニングで「全課程を受講することを必須」であり、さらに入社までにTOEIC600点を取得するように求めている、ともあります。
 
日本的ルールである「5分前行動」の拡大版バージョン。3ヶ月前行動。
 
「いったん正式に入社させたら、簡単に首を切れないから最初に覚悟を決めさせなければ」という、人事の責任者ならではの問題意識もあるでしょうね。
 
でも、ちょっと怖い。想像だけど怖い。

若干の雑感

今回の新聞記事。
大企業は、終身雇用という戦後の遺産を未だに大事にしていることが伝わる記事でもあります。
そこで社員に求められるのは「組織に対する忠誠心」であり、「社内のどこに異動しても活躍できるジェネラリスト的スキル」。
 
小中高大から優良大企業につながるパイプ(レール)をスムーズに通っていくことができれば、一生安泰です。経済的にはね。
 
ただ、今となっては、そこに入れるのはごく一部の「選ばれし人」のみ。
  
学生さん達よ!
のほほんとして大学時代を過ごしたらダメってことです!
 
TOEICのスコアが600〜700以上ある、ハイクラスな大学の学生が、さらに「名著・大著を大量に読め」と言われているわけです。

のほほんとして過ごしたら、そういうごく一部の好待遇の正社員を支えるための派遣労働者やパートタイム労働者しか道がなくなってしまいます。
 
正社員といっても、大手企業でない限りは大変ですよ!
大企業に入りたかった…的なぬるい感覚の人が闘っていける場所じゃありません。
 
だから、学生さんたちよ!
 
まずは、どんどん本を読みましょう。
自己啓発でもビジネスノウハウでもない、名著・大著・教養書を。
 
魂を揺さぶる本。脳みそに汗をかく本。わくわく感が止まらない本を。
そこには、学校生活では手に入れることができない人生の知恵がたっぷり詰まっています。
 
そして、「何者でもなれる人」ではなく「私という存在を武器にして戦える人」を目指しましょう。
そうすれば、どこにいっても戦えます。
 
「大学時代は遊んで過ごしていい」というのは、20世紀に朽ち果てたはずの幻想です。
 
自分らしくいきいきと活躍していきたいなら、できるだけ早い時期に「レールの上を走る気楽さ」を捨てて、自分の足で人生の道を歩きましょう。
 
それが人生をサバイバルする秘訣なんです。絶対に。

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この記事を書いた人

フォーカス・リーディング主宰者

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