「塾に通わせる」は子どもへの投資か?

息子が小学校4年生になって、お友達の中に「塾」にかよう子が増えてきています。
これまでも水泳、習字、サッカーなど、習い事をしている子は非常に多かったわけですが。
 
一般論として「通塾」というのは、広い意味での「進路=生き方の選択」の中で「進学」を意図した投資です。
 
「少しでもいい高校・大学に行かせたい。そのために塾へ。」── そんな親心です。
 
ただ、通塾が「子どもの将来への投資」として機能した時代は20世紀で終わったのではないかと思うわけです。
むしろマイナス投資になっているようにすら思えます。
 
もちろん、塾に通って入試対策をすることは、「より偏差値の高い高校・大学」に合格させるという意味で、未だに有効な手立てであることは間違いありません。
そういう高校・大学に入ることが、必ずしもその子の将来を保証しないという話なのです。

「パイプライン・システム」の終焉

ハーバード大学研究員のダニエル・ヤンミンとチャン・マイミンが、戦後の日本教育のシステムを「パイプライン・システム」と表現したことがあります。
 
パイプの中の流れに身を任せていれば、途中途中の分岐点(受験)で多少の努力は必要になるものの、分岐点での努力に見合うゴール、すなわち就職まで流れついてしまうというのです。
 
就職がゴール。
そこから先は大きなへまさえしなければ、終身雇用と年功序列賃金で一生安泰でした。
 
だから昔から(いや、未だに)受験勉強というのは「将来、苦しまなくていいように」という、苦労の先取りの体験だったわけです。
 
── それがいつしか機能しなくなっています。
 
大学を卒業しても、スーパーのレジ打ちをするはめになることがあります。
大学院を卒業しても、専門職に就けないことがあります。
かろうじて専門的な仕事に就けたとしても、正社員になれず、将来が保証されないことがあります。
正社員になったとしても、会社が倒産したり、突然、解雇されたりといった事態がおこります。
 
これまでのやり方に倣って分岐点で努力をしてもゴールがない、パイプからこぼれおちる。── そんな時代になったわけです。

がんばっても報われない…「希望格差」はどこから生まれたのか?

努力して勉強をしても未来が保証されず、将来に希望が持てない今の社会状況を「希望格差」と、中央大学教授山田昌弘氏は表現しています。
 
従来通りのシステムで、豊かな生活・将来が保証される人たちがいる一方で、そうでない人たちが大勢でてきているのです。
 
・受験でがんばったのに、就職が保証されない。
・仕事でがんばっているのに正社員になれない、賃金が安い、給料が上がらない。
 
そんな「希望のなさ」が「勉強する気」を奪い、学力低下を招いているのではないかと先の山田教授は指摘します。
 
でも「受験でがんばった」ことが「就職を保証しない」ことは、考えてみれば当然のこと
風が吹いても桶屋が儲かることを保証しないのと同じ理屈です。
 
就職を保証したければ、就職活動でがんばればいい。
正社員になりたい、賃金を上げてもらいたいと思えば、それに見合う努力をしたらいい。
転職したっていい。起業したっていい。
 
がんばり方を間違えれば報われない。それだけの話です。
 
パイプライン・システムも終身雇用も年功賃金も、戦後日本の高度経済成長期という、人類史上非常に珍しい時代に作られた過去の遺物。
 
時代も世界も変わり、働き方がかわったのに「教育への考え方」だけが20世紀のままフリーズ。
 
山田氏の語る「希望格差」が生まれるわけです。
その元凶はずばり「親のずれた投資感覚」です。

「塾に通う」ことがマイナス投資である、という理由

学習塾は上位の学校に合格するための力を授けてくれます。
そして、非常に残念なことに、その力は受験以外ではほとんど役に立ちません。
 
むしろ、高校の教壇に立っていた頃の経験でいえば、受験ノウハウのしっかりした塾で学んできた生徒ほど、自ら学ぶ力を損なっていることが多い。
 
だから、高校に合格しても通塾を辞められない。
挙げ句の果てには「就職活動」まで塾で学ぶ。
 
まさに中毒。依存症です。
 

  • 問題には正解があるという幻想。
  • 「何が大事か」は誰かに教えてもらえるという幻想。
  • 人生の難題は、克服の仕方を教えてもらえるという幻想。
  • 与えられた課題をこなしていれば未来が開けるという幻想。

 
塾に通うことでこれらの幻想に溺れ、現実世界を生き抜く力を失っていくのです。
そのデメリットとリスクの方にこそ目を向けるべきでしょう。

真の「進路保証」とは、サバイバル能力を身につけさせること

 
「進路を保証する」とは「目の前の高校・大学に合格させる」ことではありません。
 
その子が自分の生きる道を見いだし、自分の力で自分の人生を切り開いていく力を与えることです。
そこには「時代も社会も、その中のルールも変わるものだ」という前提があります。

―Itʼs not the strongest species nor the most intelligent that survive,
 but the one most responsive to change.
(最も強いモノでも、最も賢いモノでもない。
 最も変化に適応できたものこそが生き残るのだ。)

このダーウィンが語ったとされる(実は違うのですが…)言葉は、決して動物の世界だけに言えることではありません。
 
生き抜く力、すなわちサバイバル能力を授けることこそが真の「進路保証」── だとすると、私たちは子どもに何をどう学ばせたらいいのか?
親は、そのことを十分に考えた上で、子どもに投資しなければなりませんね。

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