お役所マインドあふれる学校の先生に起業家教育が可能なの?

昨日、小学校で起業家教育が…という記事を書きましたところ、

facebookの投稿に対して、こんなコメントをいただきました。

リスク回避的な志向で学校の先生になった方が多い中、対局にある起業を勉強として小学生に教えるのはちょっと無理があると思います。
── facebookの投稿へのコメントより

コメントをくださったのは、ベンチャーキャピタル業界で20年間起業家支援に携わってきた経験を持つ方。
 
まぁ、「リスク回避的な志向」というより、典型的な学校の先生というのは「バリバリのお役所魂(マインド)の権化」のようなタイプが多いわけです。公務員の中でも非常に公務員的で、仕事が内向き。
 
そもそも自身が学校を卒業してから、外の世界を全く知らずに学校の世界に戻ってきたという方が大半です。
自分の持っている能力の枠を超えながら仕事をする企業人と違い、基本的に自分の慣れ親しんだ世界で、自分の技能を切り売りしながら仕事をしていくわけですし。(ちょっと言い過ぎ?)
 
それで起業家教育、と。(笑)
 
この方でなくても、「?」「無理じゃない?」と思ってしまうのも無理はありません。
 
ただ、それでも私はこのプログラムを肯定的に歓迎しています。
 
その理由をちょっと整理してみました。

1.「起業家教育」は「起業家」を育てる教育ではない

起業家教育というのは、別に「起業家」を育てる教育ではありません。
1つの世界観というか価値観の指向性を示す概念だと理解すべきです。
 
経産省の資料にも、この教育の狙いについて、次のように解説されています。

起業家教育は、起業家や経営者だけに必要な特殊な教育ではありません。高い志や意欲を持つ自立した人間として、他者と協働しながら、新しい価値を創造する力など、これからの時代を生きていくために必要な力の育成のための教育手法です。チャレンジ精神、創造性、探究心等の「起業家精神」や、情報収集・分析力、判断力、実行力、リーダーシップ、コミュニケーション力等の「起業家的資質・能力」の育成を目指すものです。

このような志や意欲は、起業家のみならず、あらゆる職業人に求められるものであり、上に揶揄的に書いた「お役所マインド」の対極にあるものです。

2.起業家教育は1990年代後半から教育界がやり残してきた宿題である

「ゆとり教育」で大惨敗に終わった前回の大教育改革で志向したものと、この起業家教育と方向性を一にしています。
要するに「机に座って一方的にレクチャーを受ける授業、考える力ではなく記憶力のみを問うテスト」から脱却しましょうよ、と。
 
1990年代後半には「第2のビルゲイツを探せ!」という言葉で、新卒採用が語られました。
2000年代には「我が社にはこんなユニークな社員がいます!」というコマーシャル、企業PRがあふれました。
 
そして今、終身雇用も年功序列賃金も当てにならず、規模の大小を問わずボーダーレスで世界中の企業、昨日までの異業種企業と戦わなければならない時代です。
 
高度経済成長を支えてきた教育では、これからの時代に躍動感を生み出せる人材は育てられないぞという産業界からの要請が、20年かかってようやく新しい教育プログラムとして結実してきた、と考えていいでしょう。

3.教師が「起業」そのものを語る必要はない

そういうわけで、この起業家教育は「起業」を学ぶものではありません。
経産省には、こんな起業家教育の例が挙げられています。

  • 起業家・経営者など外部講師を招いての講演
  • 創業経営者が経営する企業・商店の訪問、職場体験学習
  • 職業調べ・企業活動の学習、経営者に関するビデオ等の視聴
  • ケーススタディ・ビジネスゲーム
  • 事業アイデアの検討、ビジネスプランの作成、コンテストの実施
  • 起業体験(模擬店舗の出店体験、模擬会社の設立)
  • 企業・地域団体等との共同プロジェクト(新商品の開発体験) 等

起業とか「会社の役割」について語る必要があれば、そういう世界で活躍している講師を招けばいいわけですし。
これは今でもやっていますよね?
 
先生はプログラムの進捗の管理と、調査方法、レポート作成、論理構成などのアドバイスだけできればいいはずです。
むしろ、このプログラムを通じて、学校の先生達が実社会とつながりを感じ、教育の可能性を模索するきっかけになるといいのですが!

4.「生産」「職業」「経済」と自分とのつながりをリアルにとらえられる

今までの学校教育では、「何のために勉強しているのか」という大きな人生の目標も見えないまま、単に目の前のテスト、受験を目的とした視野の狭い勉強になりがちでした。
 
だから「なんで受験に必要ない教科の勉強をしなくちゃいけないんですかー?」とか「それってテストに出るんですか?」という、ぶん殴りたくなるような質問が生徒から自然に出てきていたわけです。
 
学校を卒業したらしたで、働く意義も、社会とのつながりを実感できず、単に上司や部署・会社のため、目の前のお客さんのためという小さな視野でしか職業をとらえられない社会人がごろごろしている、と。
これは会社、組織、社会の側から見ると、「狭い視野でしかものを見ることが出来ない労働者」というネガティブな意味合いが、労働者の側からすると「生き甲斐、働き甲斐、生産物からの疎外」というマルクス的ネガティブな意味合いがあるわけです。
 
この起業家教育プログラムには、それを解消し、私たちと世界、仕事、経済といったものを結びつけてくれる可能性があるよね、とそんな期待をいただくわけです。

5.教科書的知識とリアルな実社会とが結びつく

なんと言っても、教科書的な知識が、現実の世界の中にプロットされ、生きた教養につながります。
これは小学校で学ぶ領域だけでなく、中学校の社会科・公民分野、高校の公民科の学びにもエネルギーを与えてくれるはずです。
 
もちろん、社会科・公民科の領域だけでなく、数学・国語・英語・理科・家庭科といったあらゆる教科・科目が、リアルな世界と結びつくはずです。
 
直接的に数式を使わなかったとしても、合理的な思考力を支えているのは数学・理科といった理系科目。
あらゆる教科・科目は、何らかのかたちで私たちの思考力・理解力を支えてくれているわけです。
 
そこに気づく糸口が得られるとしたら、これは教育全体に非常に大きなインパクトを与えるはず。

まとめ:鳶が鷹を生む教育になる可能性に期待!

以上、「起業家教育プログラムを、超お役所マインドの教師が実践できるのか?」ということも含めて、この教育プログラムの可能性を肯定的に語ってみました。
 
上に挙げたような理由から、私はこのプログラムは、お役所マインドあふれる教育の世界から、起業家マインドを持つ人達が育っていくのではないか、まさに「鳶が鷹を生む」ことにつながるのではないか、教育と社会が変わるきっかけになるのではないかと期待しているわけです。(^^)
 
とはいえ、まだこちらのグラフ(経産省資料より)のように、起業家教育プログラムといっても、受動的で、「これまでの学校教育の範疇にとどまる」ものが中心です。
 
kigyouka-edu
経産省「生きる力」を育む起業家教育のススメ 指導事例集より
 
商売ゲームや起業体験がもっと増えていくといいかな、と。
 
もちろん、それを意味あるかたち、価値あるものにするには、相当な努力と工夫、試行錯誤が必要でしょうけど。

社会科教師の世界では「貿易ゲーム」という、リアルな社会を疑似体験するゲームがありましたが、単なるゲームとして「やりっぱなし」になっていて、何も学ばせ切れていない授業の例をいくつも聞いたことがありましたっけ・・・

 
さて、この記事をお読みのあなたは、「起業家教育プログラム」の可能性について、どうお考えでしょう?

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